アメリカにおける成人ひとりあたりの年間寄付額は13万円だそうです。しかも「けっして、お金持ちだけが寄付をしているわけではなく、お金にゆとりがない人でも寄付を行う文化がある」のだとか。約十年ほどの前のデータで少々古い数字ではありますが、それでもちょっとびっくりしました。そして、日本ではそれがたった2500円だったというのですから、さらに驚きます。
藤野英人氏*1の『投資家が「お金」よりも大切にしていること』にあった記述です。ほかにも、日本人の個人金融資産における現金や預金の割合が他国に比べて突出して高い(これはよく聞く話ですね)とか、投資信託における平均保有年数はこれまた他国に比べて突出して短い2.4年である(これは初めて知りました。つまりちょっとでも損が出るとすぐに売ってしまうんですね)とかさまざまな例を挙げ、藤野氏は「日本人は世界一ケチな民族」で「人を信じず、お金だけを信じる」と断じます。
ここだけ抜き出すと「そんなことはないのでは」という反応が返ってきそうで、じっさい私も最初は読みながらそう思いました。でも、読み進めるうちに「う〜ん」と考え込んでしまったのです。なるほど私たち日本人は(と、あえて主語を大きくとりますが)とってもケチ、というか「お金」に対して、また「投資」に対して、何か大きな勘違いをしているのではないかと。
この本は投資家である藤野氏が「お金」にまつわるさまざまな切り口から日本人と日本社会、日本企業(とくに大企業)を論じるもので、投資のノウハウやテクニックを直接的に伝授するものではありません(とはいえ、投資の思想というか哲学を学ぶことはできます)。でも、だからこそ投資にあまり興味がない人でも読んで大きな刺激を受けると思います。特にこれから社会に出て行こうとされているお若い方々、就活をはじめようとされている方々は必読です。お金や投資についての考え方はもちろん、きっと世の中を見る眼そのものが変わります。
私はもう中年から初老の域に差し掛かっていて、これからキャリアや資産を形成という世代でもありませんが、それでも、ああ、こんなマインドで暮らしや仕事に向き合うことができたらとてもすてきだなと思える記述がたくさんありました。特に、一見青臭い精神論に聞こえてしまいそうな、人間や法人(企業)の「真面目さ・真剣さ・誠実さ」についての藤野氏のご意見には、私も諸手を挙げて賛成です。私たちは(またまた主語が大きいですが)真面目さ・真剣さ・誠実さが足りないと。いや本当に、「失われた20年」だか「30年」だかの原因のひとつは、ここにあったのだなと。
その「失われた20年」についても、藤野氏は辛辣な批評を加えています。
まるで、自分とはなんの関係もないことが原因で日本の経済がダメになってしまったかのように「受動態」で語られていることに、納得がいかないのです。(230ページ)
失われたのではなく、みずから失ったのではないかという問いかけですね。この本は10年ほど前に上梓された一冊ですが、いまでも増刷を繰り返しているそうです(私が購入した時点で第28刷)。この本がこれだけ読まれているという点だけは、まだまだこの国も捨てたものではないと思わせてくれるものがあります。Twitterなどで情念を煮詰めているひまがあったら、こうした本をこそ読むべきです。
*1:後から気づきましたが、藤野氏は『ゲコノミクス 巨大市場を開発せよ!』を書かれた方ですね。