インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

悪い天気なんてない

ヘルシンキ 生活の練習』を読んでいたら、筆者である朴沙羅氏の、同僚である台湾人のお連れ合い(スウェーデンフィンランド人)が言ったという、こんな言葉が紹介されていました。「悪い天気などない。不適切な服装があるだけだ」。

フィンランドでは子どもを保育園に預ける際、通常の着替えに加えて雨や雪が降っているときのためのさまざまな「装備」をあれこれと用意しなければならないそうです。なぜならフィンランドの保育園では、雨や雪が降っていても、あるいは氷点下で地面が凍っていても、子どもたちは「ほぼ必ず外で遊ぶ」からなんだとか。

そのあとに上述の「悪い天気などない。不適切な服装があるだけだ」が出てきて、朴氏は「どうもこの言い回しは人口に膾炙している気がする」とおっしゃっています。

なるほど、私たちは何かにつけ「悪い天気」を心配します。ただ災害級の悪天候はさておくとしても、ふだんの晴雨や寒暖についてあれこれ心配しても、しょせん人の力でどうにかなるものではなく、だったら人間のほうが服装で対応すればいいだけーーこれはなかなかに味わい深い諦念だと思いました。


https://www.irasutoya.com/2016/09/blog-post_663.html

ネットで検索してみると、この言葉はフィンランドだけでなく、欧州全体でよく使われる言い回しのようです。フィンランド語ではどう言うのかなと思ってそれらしい表現を考えながら検索していたら、この文にたどり着きました。

Ei ole huonoa säätä, on vain huonoja varusteita.

一般的な状況だから主語なしの三人称で否定辞“ei ole”、否定文なので“huono(悪い)”と“sää(天気)”はいずれも単数分格の“huonoa säätä”、後半はこれも一般的な状況で主語なし三人称の肯定文で、人それぞれにさまざまな服装がありうるから“huono(悪い)”と“varuste(装備)”はいずれも複数分格。文法通りです。

こちらのページによれば、もともとこの言葉は英国のAlfred Wainwright氏が『A Coast to Coast Walk』という本の中で使ったもののようです。なるほど、何となくいつも天気が悪そうなイメージ(失礼!)の英国ならではの格言なのかもしれません。

www.goodreads.com