インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

通訳・翻訳

「サカイマッスル」をめぐる騒動を眺めながら

数日来「サカイマッスル」の話題でTwitterが盛り上がっていました。大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)の公式サイトにある外語ページが、「堺筋」を “Sakai muscle” とするなど自動翻訳ソフトによる珍妙な訳語をそのまま使っていたことから、指摘を受けて閉鎖に…

ペダンチックな私

先日YouTubeでいくつかの「TEDトーク」を視聴しているうちに、ウィル・スティーブン氏の「TEDxで賢そうにプレゼンする秘訣」という動画に偶然行き着きました。youtu.beスタンダップコメディみたいな一種のお笑いパフォーマンスですけど、いかにもTEDふうのプ…

通訳者の仕事は時給換算できる?

とあるイベントでの通訳業務を仰せつかりまして、徐々に予習を始めていたのですが……。当日の午前中に急遽授業の予定が入ってしまい、代講もできない状況だったので、イベントを主催するクライアント(お客様)に集合時間を遅らせることができないかどうかと…

「どれだけ学べば稼げるか」をめぐって

年度替わりが近づくこの時期は、各種スクールで新学期の生徒募集が行われており、私も体験授業や学校説明会などに講師として参加することがあります。そういった場では最後に「Q&A」の時間が設けられているのですが、興味深いのは「このスクールにどれくらい…

言葉のヒゲを刈り込むには

「冗語(じょうご)」という言葉があります。発言する際に、おおむね無意識のうちに差し挟まれる、発言の内容とは関係のない言葉のことです。例えば、話し始めに入る「えー」とか「あのー」「そのー」「このー」といった間投詞、あるいは「〜でですね」とか…

『ナカイの窓』と同じ心性は自分にもあるかもしれない

コンビニで働く外国人労働者の日本語を揶揄したこちらの番組が、TwitterなどのSNS上で「大炎上」していました。詳しい経緯はこちらの記事で知ることができます。wezz-y.com私も以前Twitterで以下のようなツイートをしたことがあるのですが、こうした、ちょっ…

列車がまだ駅に到着していません

先日偶然見かけたこちらのツイート。先ほどの出来事ズボンのチャックが開いているのに気付かず電車乗ってしまってた(やばいやつ)ただ近くにいたイタリア人男性が気を利かせてGoogle翻訳したスマホを見せてこっそり知らせてくれてイケメンだった。【翻訳内…

「ナチュラルに見下している」差別について

先日報じられていたこのニュース、なんとも後味の悪い感覚が残りました。www.oita-press.co.jp別府大分マラソンでボランティア通訳者を務めた50代の女性が、担当した選手について「原始人とコミュニケーションをしている感覚でした」とか「最初はシャイだっ…

内向型人間のすごい力

スーザン・ケイン氏の『内向型人間のすごい力』を読みました。内向型と外向型という二つの性格の型をめぐって、これまでの研究から明らかにされた科学的知見を元に、企業や教育現場などでの対人関係のあり方を論じた本です。 内向型人間のすごい力 静かな人…

遺体修復士のことば

今日も今日とて趣味(と実益を兼ねた)のディクテーションをやっていたわけですが。こちら↓は語速もゆっくりだし、そんなに難しい言葉もつかっていないけれど、とても深みのある動画で、通訳クラスの教材に使ってみようかなと思いました。極道から足を洗って…

カタカナ用語が好きなんだなあ

今朝がた、2020年東京オリンピック・パラリンピックにおけるボランティアの愛称が決まったという報道に接しました。www.asahi.comオリパラについては、①大会役員やスポンサー企業は大儲けする一方での炎天下のタダ働きなどに応募する方の気が知れない+②国威…

愚直に楽しく語学を続けるために

先日、せっかく習い覚えた外語を忘れないために、ウェブ上の動画などを使って「聽說讀寫(聴く・話す・読む・書く)」を一応ひととおり鍛えられる方法をご紹介しました。qianchong.hatenablog.comあとは愚直にやるだけなんですけど、ディクテーションは少し…

語学と「恥」あるいは「芝居っ気」

日ごろ語学を教えたり、自らも生徒となって語学を学んだりしていてよく思うのは、語学学習の過程というのは一種の「演技」なんだな、ということです。唇や舌や声帯を日本語とは違うやり方でぎこちなく用いながら、そしておそらく日本語を話している時にはあ…

学んだ外語を忘れないようにするために

ある留学生からこんな質問を受けました。 センセは中国や台湾で暮らして中国語を学んだあと日本に戻ったそうですけど、その中国語をどうやって忘れないようにしていますか。 おおお、いいご質問です。確かに語学は筋トレのようなもので、外語はいわばその結…

下定決心,不怕犧牲。

華人留学生の通訳クラスで、教材に「爭取清真的商機」というフレーズが出てきました。「清真」は「イスラム教の」という意味で、「商機」は商機、つまりビジネスチャンスのことですから、いまふうに言えば「ハラールビジネスのチャンス」とでも訳せるでしょ…

留学生と小謡

留学生の通訳クラスで「通訳実践トレーニング」という科目がありまして、私が担当しています。「通訳実践」だから現場に出てどんどん通訳をする……のではなく、通訳を実践するために必要なさまざまな基礎的トレーニングを行うという科目です。だからほんとう…

ピダハン

ダニエル・L・エヴェレット氏の『ピダハン』を読みました。ブラジルアマゾンの奥地に住む少数民族・ピダハン族の言語を、30年近い歳月をかけて調査してきた記録です。 ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観言語を構成する音素が約10個と極端に少なく…

語尾上げの殺意

劇作家の永井愛氏に『ら抜きの殺意』という戯曲があります。これは「来れる(来られる)」「食べれる(食べられる)」のような「日本語の乱れ」を題材にした傑作喜劇です。こちらの記事で詳しく解説されています。business.nikkeibp.co.jp私自身は「ら抜き言…

広場ダンスと忠字舞

先日、通訳訓練のひとつ「サマライズ(要約)」の授業で、こんな興味深い動画を使ってみました。中国のお年寄りがどうして「廣場舞」に興じるのかについて、「廣場舞」のドキュメンタリー映画を撮った監督さんが解説をしています。youtu.be中国語の「廣場舞…

「イデオロギッシュさん」の復調

私、台湾の離島を旅するのが好きでして、これまでにいろいろなところに行ってきました。台湾人の友人や留学生からは「どうしてまた?」と聞かれるんですけど、ひなびた漁村の風情や360度誰もいない景色などがなんとも素敵なんですよね。バイクを借りてゆっく…

中国語の感嘆詞や語気助詞に萌える

中国語には「感嘆詞(かんたんし)」(これは諸外語にありますが)や「語気助詞(ごきじょし)」というのがありまして、これは主に文頭や文末に短くついていろいろな意味やニュアンスを表す言葉です。日本語の「あらっ?」とか「おおっ!」とか、「~してく…

『82年生まれ、キム・ジヨン』が問いかけるもの

東京医科大学の入試不正、とりわけ女性や浪人生への差別的な扱いがほかの大学でも行われていたのではないかという疑惑が広がっていますが、昨日は順天堂大学が謝罪会見を行っていました。www.nikkei.com「入学時点では女子の方がコミュニケーション能力が高…

留学生の同時通訳実習

昨日は留学生の通訳クラスで、講演会形式で同時通訳の実習を行いました。うちの学校には同通ブースつきの立派な「国際会議室」なる部屋がありまして、その施設を使っての訓練です。 講演をしてくださる講師を外部から招き、「容赦のない」日本語で通常通りの…

だから私は恐がられる

昨日「なまはげ」や「パーントゥ」のような、人々から恐がられる異形の神々のことを書いたんですけど、かくいう私も昔から人に異様に恐がられます。もともと面相が「強面(こわもて)」で「厳つい(いかつい)」ということもあるのでしょう。歳を取った最近…

「歩留まり」の悪い教育

中国文学者の高島俊男氏が、ご著書で「教育とは歩留まりの悪いもの」とおっしゃっていました。どのご著書だったのか、手持ちの蔵書にあたってみるも、結局見つけられなかったのですが。「歩留まり」だなんて、まるで学生さんたちを生産ラインに並ぶ機械の部…

字幕翻訳ソフトをめぐる「大人の事情」

先日、字幕翻訳ソフト「SST G1」の開発・販売を行っているカンバス社から「不正競争防止法違反に基づく差止請求訴訟(勝訴判決)に関するお知らせ」という、少々「こわもて」な件名のメールが届きました。 https://canvass.co.jp/pdf/info20181129.pdf「SST …

語学は素直がいちばん

語学関係の講師をするいっぽうで、みずからも語学の学習者として教室に通っていると、ほんとうに様々なタイプの生徒さんがいるなあと思います。言語の学び方は人それぞれですから一概には言えないのですが、長い間観察してきたなかで「これでは上達しないの…

この国で働きたいと思ってくださる方々のために

つとめている専門学校では、早くも来年度4月入学生の入学試験が始まっておりまして、私も面接担当などで時々受験生のみなさんとお目にかかることになります。受験されるのは日本語能力検定試験でいえば二級レベル前後のみなさん。日本語での意思疎通は基本…

「にわかファン」になってお仕事へ

昨日は某台湾アイドルさんたちのファンミーティングで通訳のお仕事をしてきました。以前台湾エンタメの字幕翻訳をしていた関係で、時々「ファンミ」の通訳を仰せつかるのですが、なんというのかいつも「私みたいなオジさんが出ていっていいのかしら」的違和…

メンヘラさんに贈る言葉

現在つとめている専門学校では、年に数回「通訳実習」という授業がありまして、東京都内のあちこち(観光名所や官公庁、美術館や博物館など)に行って実際に逐次通訳をしたり、同時通訳ブースのついた国際会議室でセミナーや講演会などの同時通訳をしたりし…