インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「イデオロギッシュさん」の復調

私、台湾の離島を旅するのが好きでして、これまでにいろいろなところに行ってきました。台湾人の友人や留学生からは「どうしてまた?」と聞かれるんですけど、ひなびた漁村の風情や360度誰もいない景色などがなんとも素敵なんですよね。バイクを借りてゆっくり島内を巡っているだけで幸せです。旅人の勝手なノスタルジーではありますけど。

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まだ行っていないのは、澎湖諸島の花嶼や馬祖諸島の東引・莒光など「離島のそのまた離島」と亀山島、あと大きな所では厦門(アモイ)のすぐ沖にある金門島などです。いつか行ってみたいなと思っていますが、金門島は台湾のある友人によると「行ってもつまらないよ」とのこと。

「どうして?」と聞くと彼は言葉を濁すのですが、どうやら中国本土に近くてかなり「中国化」しており「台湾らしさ」が薄れているということみたい。まあこれは彼自身のやや政治信条的なバイアスがかかった見方ですかね。私は日本人ですからこの辺の「微妙」なところには深入りしないことにしまして、いつか金門島にもぜひ行ってみたいと思っています。

でも確かに金門島は、その中国大陸との距離的な近さから、年々中国との結びつきを強めています。昔は台湾(中華民国)と中国(中華人民共和国)が向かい合う最前線で極度の緊張状態にあった島ですが(今でもそれなりの緊張感はあるそうですが)、「三通」がかなり進んだ現在は隔世の感があります。ついこないだも、島民の悲願だった大陸からの水道水供給が始まったというニュースが流れていました。

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しかも先日「次は金門島に行ってみたいな~」とネットで旅行情報を検索していたら、なんと日本人でもパスポートの提示で「金門島厦門」のフェリーに乗れるのだとか。へええ、そんな時代になったんですね。ぜひ一度沖縄から島伝いに与那国島へ行って、そこから船で台湾に入り、さらには金門島から厦門へ……みたいな「のんびり旅行」をしてみたいです。現在のところ、与那国島から台湾(基隆あたりの港につくのかしら)への定期航路はないようですが。

両岸三地」をめぐって

ところで、私はいま、こうしていわば「第三者」的な立場でのんびりしたことを書いていますが、かつて私が中国語を学び始めた頃――当時はまだ香港や澳門マカオ)の「返還」前でした――は、このあたりはもう少しセンシティブな話題でした。中国・台湾・香港と澳門を総称して「両岸三地」などと言い、それぞれの「地」から来られた異なる出自の華人に接する場合、それなりの配慮というか自制というか、そういうものが(それほど明瞭な形ではなかったものの)求められるような雰囲気があったように思います。

中国と台湾が互いに「蒋匪」「共匪」と罵り合っていた頃からはすでにずいぶん時代が下ってはいましたが、それでも中国語学校では暗に台湾を非難するような空気を「ノンポリ」な私でさえ感じていたものです。日本における中国語教育は圧倒的に「北京一辺倒」なので、中国人講師の中には台湾で使われている繁体字(正体字)を「正式な文字じゃない」とのたまう方もいましたし、日本人講師にも「私はいまだに台湾に行けません」とやや意味不明なことをおっしゃる方もいたのです。

また留学生や在日華人のなかにもときどき「イデオロギッシュ」な方がいらして、「一個中国」や「一辺一國」に絡んで感情的に高ぶっちゃうことがあり、ヒヤヒヤしたことは一度や二度ではありません。まあ私は日本人で、いわば第三者的な立場ですから別にヒヤヒヤする必要はないのですが、ただ中国と台湾が今のような状況にあるその責任の一半は日本にもあるので、ひとりの日本人としては「我関せず」に徹するのも卑怯な気がしますし、いろいろ悩ましいところではあります。

「敏感」な留学生

とはいえ、この件に関しては基本的に当事者が決めていくことであり、私自身内心ではいろいろ思うことがあっても口を挟むことは慎むべきだと考えています。また、上記の「三通」にも表れているように、現在の中国語圏は政治的な思惑はさておき経済的には緊密に結びついており、仕事の現場でお目にかかる華人にも様々な出自の方がいらっしゃるので、例えば通訳学校などでの教材も、実利面を考えて、できるかぎり様々な地域の出身者が語る「実況録音」を使って授業をするようにしています。

配付する資料も簡体字繁体字さまざまですし、中華人民共和国の話題、中華民国の話題、香港や澳門の話題、それも硬軟取り混ぜて……ということで、時に政治的な背景のある発言についても取り上げることがあります。もちろんその際には「これは教材であり、政治的な意図や意向は全く含まれていないこと」について念を押し、さらには通訳者はどんな発言でも訳す義務がある――例えそれが仮に自身の思想信条に反していても――という点についても丁寧に説明しています。

……ところが。

それでも生徒さんの中にはこうした「敏感(中国語でも、取り扱いに慎重を要する、とか、デリケートな、といった意味があります)」なところに「敏感」に反応してとつぜん間欠泉が吹き上がっちゃう方が時々いるんですよね。

例えば先日は、学校説明会に見えた留学生に、私がうっかり「ご出身はどちらですか? 中国ですか、それとも台湾?」と訪ねたら、それには答えず「台湾は中国の一部です!」と返してきた方がいました。ほかにも教材で台湾の政治家のインタビューを取り上げたら「私は、こういうのはちょっと……」と訳出を拒む中国人留学生や、逆に中国人留学生が中国の茶文化を紹介する際に「珍珠奶茶(タピオカミルクティー)」に触れたら「それは台湾の文化です!」と発言する台湾人留学生など、みなさんけっこう「イデオロギッシュ」なんです。

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https://www.irasutoya.com/2014/03/blog-post_2687.html
私はまあ背景をそれなりに理解しているので「まあまあ」とその場を収めることもできますが、そこまで慣れてらっしゃらない日本人の先生方にはその攻勢にたじろいでしまう方もいます。せっかく日本という「第三国」に留学しているのですから、ぜひその得がたいシチュエーションを利用して、現代に即した多様なものの見方考え方を身につけていただきたいと願っているのですが……。

しかしこれは私個人の感覚ですが、こうした「イデオロギッシュさん」は二十年くらい前のほうがはるかに多く、その後は世界情勢の変化もあってずっと減少傾向だったのです。それがここに来てなんとなく復調の兆しを見せているような気がするんですよね。現代っ子が短絡的な思考に陥りやすいのか、若者特有の「政治的な先鋭化」なのか*1、親の世代の政治的志向の反映なのか、「両岸」の現状が後押ししているのか、はたまた単に個人的に未成熟だからなのか……即断は避けたいと思いますが、ちょっと心穏やかならぬものがあります。

*1:私もかつては「人前ですぐ赤く(紅く)なる」と言われてました。