インタプリタかなくぎ流

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フィンランド語 79 …目的語についての復習

新年最初のフィンランド語教室は、これまでの復習ということで問題集をみんなで討議しながら解きました。“Suomen Mestari”という教科書に入っている問題集です。解いたのは“Valitse oikea objekti.(正しい目的語を選びなさい)”というもの。これは素晴らしい。というのは、いつも作文をしていて、目的語の格を決めるのがとても難しいと感じていたからです。

Harjoitus 16. Valitse oikea objekti.
1. Matti opiskelee yliopistossa biologian / biologiat / biologiaa.

1. は例題で、赤字になっているのが正解です。「マッティは大学で化学を学んでいます」ということで、現実的に化学のすべてを学ぶことはできないので目的語は単数分格。先生からは、このように「なぜその目的語を選ぶのか」という理由を考えながら解いてくださいと指示がありました。以下、取り組んでみます。日本語訳は単語を覚えるためにあえて「直訳調」です。

2. Hän ajaa yliopistolle pyörällä ja panee pyörän / pyörää / pyörä kadulle pyörätelineeseen.

「彼は自転車に乗って大学へ行き、通りの自転車置場に置きます」。主語と動詞が連動しているので(Hän ajaa)主格の“pöyrä”は除外。自転車は数えられる名詞なので、ここは単数対格の“pyörän(自転車一台)”ですか。数えられない名詞の場合は単数分格。

3. Ennen luentoa hänen täytyy syödä kahvilassa sämpylä / sämpylän / sämpylää ja juoda kahvi / kahvin / kahvia, koska kotona jääkaappi oli tyhjä.

「講義の前に、彼はカフェでプチパンを食べ、コーヒーを飲まねばなりません。家の冷蔵庫が空っぽだったので」。プチパンは数えられるので単数対格の“sämpylän”かと思いましたが、“täytyy”や“pitää”など「〜しなければならない」の場合、主語と動詞が連動しておらず(主格の主語が明示されていない)、このような場合は「一個」を表す(全体目的語)単数対格は単数主格に戻るのでした。コーヒーは数えられない(部分目的語)ので単数分格の“kahvia”かな?

4. Sitten hän nousee porras / portaat / portaan toiseen kerrokseen ja menee luennolle.

「そして彼は階段を二階まで上がり、講義に出ます」。例によって主格の“porras”は除外、あとは複数対格の“portaat”か単数対格の“portaan”ですが、二階へ上がったのに階段ひとつ(一段)ということはないでしょうし、二階までの階段はすべて上がりきっているので「全部」を表す複数主格の“portaat”。

5. Siellä hän tapaa Mariaa / Maria / Marian, joka on hänen kurssikaveri.

「そこで彼は、彼のクラスメートであるマリアに会います」。マリアは一人だから単数対格の“Marian”でいいと思いますけど、会っているところだという「進行形」なら単数分格の“Mariaa”もあり得る? でもこのあとも話が流れていく文脈からすると不自然かもしれません。

6. Matin täytyy sulkea puhelimen / puhelin / puhelinta, kun hän menee luentosaliin.

「マッティは電話を切らなければなりません。彼が講義室に行くときに」。これも3.と同じで主語と動詞が連動していない(主格の主語が明示されていない)ので目的語は主格にして“puhelin”。

7. Luentosalissa Maria avaa tietokonetta / tietokoneen / tietokone ja alkaa kirjoittaa.

「講義室でマリアはパソコンをつけ、書き始めます」。“tietokoneen”は一瞬単数入格に見えますが、“tietokone → tietokonee → tietokoneen”で単数対格ですね。単数入格なら“tietokoneeseen”。パソコンは数えられるので「ひとつ」ということで“tietokoneen”でいいように思いますが、パソコンをつけ続けているという進行形で考えるなら単数分格の“tietokonetta”でもいいような気がします。

8. Matti ei käytä tietokonetta / tietokone / tietokoneen. Hän kirjoittaa käsin.

「マッティはパソコンを使いません。彼は手で書きます」。“kasin”はまだ習っていない「〜で」を表す具格なのでしょう。それはさておき、ここでは否定文なので単数分格の“tietokonetta”一択。

9. Matti ja Maria kuuntelevat professorin / professori / professoria ja kirjoittavat muistiinpanoja.

「マッティとマリアは教授の話を聴き、メモを取ります」。“kuunnella(聴く)”は継続動詞で教授の全てを聴くことはできないので単数対格の“professoria”。

10. Luennon jälkeen he menevät ruokalaan ja syövät lounas / lounasta / lounaan.

「講義の後で彼らは食堂に行き、ランチを食べます」。このあとも食べる話が続いていく文脈からすると、単数分格の“lounasta”かな?(※間違いました。答え合わせをしたら単数対格の“lounaan”でした。「ランチひとつ」ということですかね)

11. Matti syö kalan / kala / kalaa, mutta Maria ei ota sen / se / sitä, koska hän on allerginen kalalle.

「マッティは魚を食べますが、マリアはそれを選びません。彼女は魚にアレルギーがあるからです」。前半は「魚一匹」で単数対格の“kalan”でもいいような気がしますが、「魚料理」という意味で単数分格の“kalaa”を選べるのでした。後半は否定文なので単数分格の“sitä”。

12. Ruokalassa he tapaavat Iidaa / Iida / Iidan, joka on Marian ystävä.

食堂で彼らはマリアの友達であるアイダに会います」。アイダは一人なので単数対格の“Iidan”。でも「会っている」という進行形と考えると単数分格の“Iidaa”でもいいような。

13. Matti ei tunne hän / hänet / häntä.

「マッティは彼女を知りません」。これは否定文なので単数分格の“häntä”。

14. Iltapäivällä Matti istuu kirjastossa, lukee tenttikirjat / tenttikirjan / tenttikirjaa ja syö suklaata / suklaan / suklaa.

「午後にマッティは図書館で試験の参考書を読み、チョコレートを食べます」。すべてを読むとは考えにくいので単数分格の“tenttikirjaa”。チョコレートは物質名詞(部分目的語)なので単数分格の“suklaata”。また「読みながら食べている」という進行形と考えても単数分格。

15. Hän lainaa kirjastosta pari kirjaa, panee kirjan / kirjat / kirjaa kassiin ja lähtee pyörällä kotiin.

「彼は図書館から数冊の本を借り、バッグに入れ、自転車で家に向かいます」。借りた数冊の本をすべてバッグに入れるでしょうから、複数主格の“kirjat”。

16. Illalla Matin pitää vielä tehdä kotitehtävän / kotitehtävää / kotitehtävä englannin kurssille, joka on huomenna.

「夜にマッティはさらに明日の英語クラスの宿題をしなければなりません」。“pitää”の文で主語と動詞が連動しておらず(主格の主語が明示されていない)、数えられる名詞の「宿題」は単数主格にして“kotitehtävä”。

付記

これまでの授業では「主語と動詞が連動しない時に『ひとつ』の目的語は原形に戻る」という先生の説明がいまひとつピンと来ていなかったのですが、今回こうやって問題を解いてみて何となく分かってきました。吉田欣吾氏の『フィンランド語文法ハンドブック』177ページには「全体目的語が主格になる場合」という項目があって、そこではこんな文章が例示されています。

Ostakaa auto!
自動車を買いなさい。
Ostetaan auto!
自動車を買おう。
On kiva ostaa auto.
自動車を買うのはすてきだ。
Minun täytyy ostaa auto.
私は自動車を買わなければならない。
Sinulla on mahdollisuus ostaa auto.
あなたには自動車を買える可能性がある。

これらの文章はすべて本来なら全体目的語で「車一台」ということだから単数対格*1の“auton”とするところを単数主格の“auto”になっています。これを『フィンランド語文法ハンドブック』ではこのように説明しています。

 以上は、本来であれば属格となるはずの全体目的語が主格となる例ですが、それらには共通点があります。それは、これらの文では主格の形をした主語が明示されていないということです。
 これらの文では「買う」という行為の主体を表す主格の語は登場していません。それは表現しなくても前後関係などから誰が行為者なのかはわかるからです。あるいは主語に相当する人物は属格など主格以外の形で表現されています。主格の形をした主語が表現されていないので、目的語を形の上で主語と区別する必要はありません。つまり、属格にせず主格のままであっても目的語だとわかります。このような場合には、全体目的語は属格の形にせず主格のままで表現します。ただし、部分目的語は、これらの場合であっても分格にします。(178ページ)

なるほど。ということは部分目的語、たとえば“maito(牛乳)”だったら上掲の文はそれぞれこうなるんですね。

Ostakaa maitoa!
牛乳を買いなさい。
Ostetaan maitoa!
牛乳を買おう。
On kiva ostaa maitoa.
牛乳を買うのはすてきだ。
Minun täytyy ostaa maitoa.
私は牛乳を買わなければならない。
Sinulla on mahdollisuus ostaa maitoa.
あなたには牛乳を買える可能性がある。

目的語について、なんだかほんの少しだけ「開眼」したような気がしています。

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*1:この本では「属格」とされています。これは私もまだあまりよく分かっていないのですが、研究者や教師によって「単数対格」を「単数属格」と分けずに説明する方もいるようです。形としては同じなのですが。一方で「〜を」が単数対格、「〜の」を単数属格としたほうが分かりやすいという観点で(たぶん)分けている方もいるよう。