インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

オンライン授業をどうする?(その6)

オンライン授業(遠隔授業)への対応が不可避ということになってから、いくつかの授業内容(課題)を作ってきました。ただ、授業を行うこちらも初めての経験なら、受け手の学生さんたちも初めてのことばかり。いろいろと小さな行き違いがあったり、予想したとおりに進まなかったりしています。でも、もう少し続けていけば、お互いに慣れてくるのではないかと楽観視もしています。というか、今のところはこうするより他に方法がないんですから、イヤでも慣れなければなりません。

オンライン上のプラットフォーム(Google ClassroomなどのLMS)で課題を出して、それを締め切りまでに回収し、必要があればフィードバック……という「流れ」が基本なのですが、その過程でいくつか問題点も見えてきました。そのひとつはこうした「流れ」自体の説明がうまく浸透しないという点です。私が対象にしている学生さんは全員外国人留学生ですが、日本語はもう数年以上学んできており、さらに日本にも長く住んでいるので、基本的には日本語での説明や指示を読み間違えることはない(はず)です。……が、それでも「これこれ、こうしてください」という指示を読み落として指示通りに課題をこなせない人が少なからず出ています。

これはひとりひとりの意識や注意力の差もあるでしょうし、またLMSにおけるいろいろな機能の使い方にまだ慣れていないということもあるでしょう。もとより対面授業をしていたときも、口頭での説明だけでは伝わらない学生さんが一定数いるので、必ず同じ内容を刷り物にして配るとか、スライドの画面に投影するなどして、しつこいくらいに伝える努力をしたんですから。

ともあれ、オンライン授業ではさらに特有の「隔靴掻痒感」が加わるので、指示通りに課題に取り組んでもらうためにより細かい注意が必要だと感じています。けれど、あまりしつこく細かく文章で説明すると、分かっている人には却って煩く感じられ、また文章が多くなればなるほど元々の「うっかりさん」たちはますますその「うっかり度」が増すようなところもありそうで、その加減に苦労しています。

授業自体については、いくつかのパターンに落とし込めそうだというのが段々分かってきました。教員によって教える内容が異なるので、一概にこうしておけば良いというテンプレートみたいなものは作れないのですが、非常勤の先生方にある程度はサンプルになるような事例を示す必要があって、試験的にあれこれ作ってみたのです。

まだまだ想像力が及んでいないところは多々あるとは思いますが、おおむね①「非同期で文書ファイルベースのやり取りのみ」、②「非同期で音声や動画などのやり取りも含む」、③「同期で対面授業とほぼ同じ内容を再現」あたりのパターンが考えられそうです。そしてとりあえず最初は①や②から始めて、双方がオンラインの環境に慣れてきたら(かつ通信インフラの問題がハードと通信料の双方でクリアされたなら)③も取り入れていこうということになりました。

オンライン授業は(特に非同期のそれは)「隔靴掻痒感」があると書きましたが、よくよく考えてみればこれは学生さんにとっても「学び方」の姿勢や質を問われる好機(あるいは危機?)ではないかとも思います。対面授業では単に教室にやって来て漫然とでも授業に参加していればその授業時間は過ぎていきましたが、非同期での授業の場合はかなり能動性というか主体性が求められるからです。自分で学習時間を管理して、隔靴掻痒感があるぶん自分からキャッチアップしていかないといけない。もちろんそこで「通常通りの授業じゃないから学費を返せ」と言ってもいいのですが、逆に自分から学びに行く方向へマインドセットすることもできる。

つい最近までは私、知識教授型の講義形式の授業ならともかく、大量の(しかも双方向の)やり取りをともなう通訳系の訓練をどのようにオンライン化したらよいのかと頭を抱えていました。通訳学校の中には以前からオンライン教育(eラーニング)をやっているところがあって*1、そういう学校の実践例なども色々集めてみたのですが、どうも対面授業のバージョンダウンという感じが否めず(ごめんなさい)、「コレジャナイ」感を覚えていたのです。

でも、反転授業の方法なども活用しながら上手く「仕向ける」ことができれば、やる気のある人にとってはこれまでの対面授業よりもっと面白い通訳訓練ができるような気がしてきました。まあぶっちゃけて言えば、学ぶ意欲のある人は「仕向け」られなくても貪欲に学んでいくものですが、そこはそれ、授業料を取っている以上、そこまで意欲のない学生さんもそこそこノセてあげないといけないわけで。

そして、もしオンラインでのそういった授業のやり方が奏功すれば、この事態が収まったあと通常の対面授業にもどったあかつきには、逆にリアルな教室にそのやり方を持ち込んだっていいのだと思いました。もともとここ数年、通常の通訳訓練になんとなく行き詰まり感を抱えていたのです。なのに忙しい日々に追われて、あまり大きな改善もできずに来ていたのでした。もしこれまでとはまったく違う発想の授業や訓練の方法が作り出せたなら、これこそ怪我の功名というものです。まあ今のところは「取らぬ狸の皮算用」なのですが。

オンライン授業は隔靴掻痒感がありますが、だから逆に思い切ったことを試してみることができる、そのチャンスなのだと思うことにしました。そうした実験につきあわされる留学生諸君には申し訳ないですけど、いつかどこかで埋め合わせをしますから、ぜひ積極的に学んでみてほしいと思います。

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https://www.irasutoya.com/2016/02/blog-post_956.html

*1:通訳学校はそのほとんどが東京か大阪のような大都市にしかなく、地方にお住まいの方はけっこうeラーニングを利用されているのです。