昨年の夏、『ライティングの哲学』をよんですぐに「アウトライナー」を使い始めました。アウトライナー(アウトラインプロセッサ)とはその名の通り、文書のアウトラインをざっくりと作るためのツールで、思いついた端からどんどん入力していき、かつあとから文書の体裁を整えるために削除や入れ替えや階層構造の変更などを簡単に行えるようになっています。エディタと呼ばれる、テキストを書くためのシンプルなワープロと似ていますが、画面上のドラッグで文章や段落を簡単に移動できるので、とても便利です。
文章や段落を移動するだけならワープロソフト上のコピー&ペーストでも十分のような気がしますが、やってみるとアウトライナー上の操作のほうが格段に楽です。この操作性の楽さ加減ゆえに「後先考えず」どんどん文章を書くことができるというのがアウトライナーの魅力ではないかと思います。なにせ文章というものは、書き始める前はとてつもなく高い壁のように思えるのに、書き出して、書けば書くほどどんどんと前駆性が増していくものですから。たったいま自分が書いた文章が呼び水になって、どんどん次の文章が紡ぎ出されてくる(こないこともありますが)。日常的に文章を書いている方ならおおむね同意してくださるのではないかと思います。
またこれは文章のみならず、人前で話すときにも同じようなメカニズムが働いているように感じることがあります。話しはじめる前はまったく自信がないのに、いったん話しはじめると自分の発した言葉が呼び水になって次の言葉が紡ぎ出されるのです(これも、まったく事前のインプットがなければダメですが)。
アウトライナーを使い始めてから、MicrosoftのWordを使って文章を書くことがほとんどなくなりました。職場で提出を求められるような文書を書く際に、ほとんどアウトライナーで書いてからWordに移し、体裁を整えるために使うくらいです。
こうしてアウトライナーがベースになり、Wordがオプションになってみると、Wordをはじめとするワープロソフトの「鈍重さ」(失礼!)が改めてよく分かります。起動も遅いですし(クラウド環境になってからは特に。ただしこれは私の職場のネット環境のせいでもありましょうが)、いらぬお節介は多いですし(段落調整や校正機能やスタイル適用や……もちろんそれらの機能を全部切ればよいのですが)、突然のフリーズや保存の失敗なども。その点アウトライナーはほぼ常時更新され保存されますし、自宅・職場・移動中のスマホなど、異なるデバイスで共有するのも簡単ですし、とにかく動作が軽くてストレスフリーなのがいいですね。
文書を書くこと以外、ほとんど機能がないのも逆によいです。私がいま使っているのはWorkFlowyで、これは文字をボールド・イタリックにしたり下線を引いたりするくらいしか機能がありません。使い始めてからしばらくして、以前はなかった文字に色をつけたり網掛けをしたりする機能が加わりました。「ああ、そんなに複雑にしていかなくていいから〜」と思いましたが、語学の勉強で間違ったところを赤字にするなど、これはこれで重宝しています。