インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

いまも日本語を学んでる?

きのう、オンライン英会話のチューターさんからそう聞かれました。そのチューターさんとは初めてのレッスンだったので、私が自己紹介しながら仕事は語学の教師をしていますなどと話していたら、“I've got a question for you as a teacher of a different language. Do you still study the Japanese language?(語学教師のよしみで聞くけど、いまも日本語を学んでる?)” って。

オンライン英会話でそんな質問をされたのは初めてでした。日本語の母語話者に「日本語を学んでる?」と聞くのは奇妙だと思われるかもしれませんが、私はこれ、すごくいい質問だと思いました。たぶん何かの語学を学ばれた方なら同意してくださると思うのですが、外語を学べば学ぶほど母語の大切さが分かるものだからです。豊かな母語のベースがあってはじめて、外語の能力も伸ばしていくことができるという実感とでもいうか。

よりシンプルに言うならば、母語でも表現できないような複雑で多様な概念は、外語ではもっと表現できないですよね。どんな感動も「ヤバい」のひとことで済ませてしまうような方が、amazing, awesome, brilliant, cool, excellent, fabulous, fantastic, great, incredible, magnificent, marvelous, nice, spectacular, splendid, wonderful ……などなどを使い分けられると想像するのは難しいです(私もここまではとても使い分けられないけど)。つまり、母語の豊かさが外語の伸びしろを担保しているのだと私は思うんです。

qianchong.hatenablog.com

このチューターさんは英国人でしたが、自らもさまざまな言語にチャレンジしているそうです。そしてまた、英語母語話者には英語しか話せない(話さない)という人が多く、外語を学ぶことで異なる視点や認識や価値観から世界を捉えることができることの重要性を理解していない人も多いと残念がっていました。

When I'm reading English articles and practicing my pronunciation of English, people will say to me, you're an English teacher, you don't need to study. I'm like, no, I need to study because I'm an English teacher.
私が英語の記事を読んで発音練習をしていると、英語教師なんだからそんなことしなくてもいいのにと言われます。でも、英語教師だからこそ学ぶ必要があるんです。

そう言われて、思わず「同志!」と叫びそうになりました。こういう方に出会えてうれしかったです。


井上純一『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』145ページ