インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

不定愁訴とその後のその後

不定愁訴というか、男性版更年期障害というか、とにかく日々の訳の分からない「しんどさ」にとうとう根を上げ、改善に取り組み出してから半年あまり。四ヶ月目あたりでずいぶんよくなってきてはいたのですが……

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……この時点では、いちばん気がかりだった高血圧がまったく改善の兆しを見せていませんでした。常時上が150〜160前後、下も100を切ることがほとんどないという状態。医師からは「これ以上あがるようなら降圧剤の服用を考えても……」などといわれたこともありましたが、正直日本の高血圧の基準については色々不透明な部分もあって、内心もやもやとした気分を抱えたままでした。

toyokeizai.net

それでも、細君のくも膜下出血もあって不安が募っていたので、今年に入ってからもう一つ取り組みだしたことがありました。それは節酒です。きっぱり断酒とまでは行かないところが情けないですが、とりあえず平日はなるべくお酒を飲まないことにして、週末だけのお楽しみとしてみました。

元より大の酒好きだったんですけど、幸か不幸かこの歳になって酒量が減り始め、それほど飲めなくなった(少しのお酒で酔うようになった)のもあって、この節酒、私にしてはめずらしく続いています。それまでにも何度もチャレンジしたことはあったのですが、いずれも成功しなかったのです。

加えて、最低週二回のパーソナルトレーニングと昼食を抜く(もしくはごく軽く食べる)ことに加え、さらに『愉快的陳家@倫敦』のMarichanさんに教えていただいたサプリメントも飲み続けてきました。

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https://www.iherb.com/pr/MegaFood-Men-Over-40-One-Daily-Iron-Free-Formula-60-Tablets/42561
“Over 40”なんて、かなりサバ読んでますが。

そして現在ーーなんと血圧が135/95あたりまで下がりました。腕に装着するタイプと手首タイプでダブルチェックしてもほぼ同じ値なので間違いないと思います。トレーニングの結果、何となく筋肉もついてきました。お腹周りがかなり減ったので、スーツのパンツは腰回りが余るようになりました。すばらしいです。

食べ過ぎず、夜にお酒を飲まず、適度に運動していると、気のせいか多少なりとも精神が明晰に保たれるような気がします。本もたくさん読めますし。以前は夕刻になると「疲れてるんだから」とか、はては「労働の後の愉楽なんだから」とかテキトーで勝手な理由をつけて飲んだくれてましたが、もうそういう「痛いこと」をするトシではないということですね。ちょっと残念ではありますけど。

クラシカルなエレベーターに萌える

北欧の旅では、宿泊をすべてAirbnbで手配しました。民泊って、それなりに快適な場所に泊まろうとすると必ずしもお安いとはいえない場合が多いんですけど、いろいろ検索してみると、物価の比較的高い北欧ではホテルよりも安く快適に泊まれそうだったのです。あと、個人のお宅で洗濯機が使えます、ってのがポイント高いです。なんといってもモノを減らしたい個人旅行ではこまめな洗濯が必須ですから。

ヘルシンキで泊まったのは、市内のごくごく普通のフラットでした。民泊は鍵の渡し方がそれぞれに面白くて、家主からの手渡しのほかに、キーボックスが設置されてるとか、近所のキオスクに預けてますとか、はては秘密の場所に隠してあるからスマホに送る写真を見て探してね、みたいなのもあります。ヘルシンキのこのフラットは最後のタイプでした。

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入口の脇にあるこのブラシが組み合わさった物体は、たぶん雪や泥にまみれた靴をキレイにするためのモノなんでしょうね。

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部屋は3階でしたが(グランドフロアがあるから実際には4階)、エレベーターがとても面白かったです。二人も乗れば一杯になるくらいの小さな箱で、ドアを開け閉めして入りますが、ドアは各フロア側にあるだけで、エレベーターの箱自体にドアはついていませんでした。つまり上昇や下降をしている時は目の前で壁がスライドしていくのです。怖いというか面白いというか。スマホで動画を撮りました。

youtu.be

ストックホルムで借りたお宅は、かなりクラシカルな建物。こちらは家主と直接会って鍵を渡され、室内の説明も受けました。天井が高くて、こぢんまりした部屋ながら解放感があります。窓から見える中庭の風景も風情がありました。

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こちらのエレベーターは、螺旋状の階段の真ん中を貫いている、やはりクラシカルなタイプ。外扉(各フロア側)と内扉(エレベーターの箱側)をそれぞれ手で閉めて乗るようになっています。「二つともきちんと閉めないと動かなくて、ほかの階の人に迷惑になるから注意して」と家主さんに言われました。これもなかなか萌えますね。確か日本橋高島屋のエレベーターがこんな感じじゃなかったでしたっけ。

youtu.be

ふたつとも一見「大丈夫かな……」という気持ちになりますが、きちんと設計されているのでとても安全です。ただこれ、日本で設置するのは難しいかもしれないですね。クレームがいっぱい入りそう。あるいはクレーム回避のためにエレベーターの内外に数多くの注意書きがべたべた貼られそう。このあたり、ヨーロッパの個人主義というか自己責任というか、自立と自律を重んじる精神を垣間見たような気がしました。

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謡本から五線譜への「翻訳」

六月の温習会で舞囃子「清経」の地謡に入ることになっているので、目下、謡を鋭意暗記中です。昨晩のお稽古では、お弟子さんのお一人から「謡本を五線譜にしてみました」と、こんなものを頂きました。おお、謡曲がなんだかドイツリート(歌曲)みたいな雰囲気です。

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謡本には「ゴマ譜(ゴマ点)」と呼ばれるものがついていて、これがいわば音符のような役割を果たすのですが、実際には師匠の謡を真似つつ音の上がり下がりを取っていきます。それが詞章(歌詞のようなものです)とともに五線譜上に再現されているのを見てとても新鮮に感じました。西洋音楽の休符と、謡本の「ヤヲ」や「ヤア」などの「間」が混在しているのも面白いです。

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このお弟子さんは指揮者をしてらして、西洋音楽のプロフェッショナルなのですが、この「謡本から五線譜」というの、一種の翻訳みたいだなと思った次第です。表現の体系は全く違うけれど、原本をできるだけ「等価」に別の形で再現してみたわけですから。

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明確な旋律のない「強吟(ごうぎん)」の部分や、お囃子の拍の部分は縦線にバツ(×)の譜で書かれています。そして舞囃子の謡の最後は少し速度が落ちて終わるのですが、そこは「rit(リタルダンド)」ののち「𝄐(フェルマータ)」ですか、わはは、なるほど。

能楽の謡は絶対的にこれ! と定まった音域がなく、その時の演者の協調によって定まるものですし、リズムや旋律も定型はあるものの実際には謡本には書かれていない細かな調整や演者による異同があります。それをシステマチックな西洋音楽の音符にしても……といぶかる向きもおありでしょうが、考えてみれば西洋音楽だって同じ楽譜が演者の解釈や世界観などによってそれこそ千差万別な演奏がなされるわけです。そう考えればこの「翻訳」もありなんじゃないかな、さらにはこれによって謡曲が様々な文化圏の方々に届くと面白いな、と思ったのでした。

ペリカンに丸呑みされて

コペンハーゲンの「デザインミュージアムデンマーク」は世界的に評価の高いデンマークのプロダクトデザインを中心に展示している美術館です。先日訪れた際には、ちょうど日本のデザイン(ただし現代のものよりも浮世絵や民芸など近代以前のデザインにより高い比重がかけられていたようですが)特集も行われていました。

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こちらの美術館の目玉でもある、デンマークデザインの椅子がずらっと並んだ展示も見ごたえがありましたが……

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いちばん心ひかれたのは、この椅子でした。フィン・ユールがデザインした「ペリカンチェア」。休憩用に置かれていて、実際に座ることができます。天使の羽のようにも、あるいは犬の耳のようにも見える背もたれがかわいいですよね。

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実際に座ってみたのは初めてだったのですが、その座り心地のよさにびっくりしました。背もたれに配されたボタンも、大胆でモダンな形状のこの椅子に、どことなくクラシカルな印象を与えています。これは……欲しい。突然、まるでペリカンが丸呑みするような怒濤の物欲に駆られてしまいました。

日本に戻ってからネットで検索してみましたら、この椅子は意匠権の期間が過ぎている(なんと1940年にデザインされたそう)ため、「リプロダクト(ジェネリック)製品」が売られていました。お値段10万円ちょっと。う〜ん、やっぱり高いですし、オリジナルと比べると形が全然違うやん。以前イームズの「DSW」という椅子のリプロダクト製品を購入したことがあるのですが、すでに持っていたオリジナルと比べると出来映えは雲泥の相違で(まあ値段からいっても当たり前なんですけど)、後悔したことがあるのです。

オリジナルはおいくらくらいなのかしら……とさらにネットを検索してみましたら、でました、こちら。

Finn juhl/フィン・ユール/ペリカンチェア

972000円? ばばばか言っちゃいけません。中古の自動車が買えるじゃないですか。これはうちには無理です(もとより狭い家のどこに置くんだというハナシですし)。

とはいえ、ペリカン的な物欲は容易には収まらず、さらにネットでの検索を続けていましたら、アメリカのこのサイトでも通販されていました。いまはもう何でも通販しているんですね。

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Finn Juhl Pelican Chair w/ Buttonswww.danishdesignstore.com

6048ドル……ということは約64万円。日本のサイトで買うよりずいぶんお安いです(送料はけっこうかかるでしょうけど)。しかも椅子に張るレザーやファブリックを細かく指定することもできます。う〜ん、毎月お小遣いをためて、何年か後に買っちゃおうかしら。あるいはローンで。いやいや、どこに置くんだ、いやいや、人生は一度きりだから……とペリカンの毒にまだ浮かされています。

現代北欧料理のお店三選

これまた例によって食べ歩きを極めた末でもなんでもなく、ネットであれこれ探して行ってみただけですが、いずれも現代的な北欧料理のお店を三つご紹介します。現代北欧料理といえばデンマークのレストラン「noma」が有名ですが、有名店だとかえって行きたくなくなるという「あまのじゃく」な私(予約も取りにくいですし)。今回は、「noma」ふうに料理がすべてお任せで、なおかつそれぞれの料理に合わせてグラスでワインをあれこれ出してくれるお店を探してみました。

ちなみにネットで検索といっても大したことはしておらず、単にGoogleMapで自分が今いる・もしくはこれから行く場所の近くに「よさそうなお店はないかな」と探すだけです。GoogleMapには世界中のユーザがチェックしたありとあらゆるお店がピンナップされていて、口コミも多数載っています。様々な言語の口コミも即座に日本語に翻訳(かなり怪しげですが)してくれるので、GoogleMapで検索する時は日本語だけじゃなくて、英語のキーワードにしてみると意外な面白いお店が見つかることがあります。

ask

ヘルシンキの繁華街から少し離れた、ヘルシンキ大学裏手の静かな一角にありました。20種類近い料理が次々に出てきて、かなり面白いです。最初の数種類はナイフやフォークを使わないフィンガーフードで、丸めて乾燥させたお手ふきに目の前でお湯をかけてもどすとか、料理のソース類は必ずテーブルでかけて仕上げるとか、中にはピンセットで食材をつまみ上げながら食べるものもあるとか、いろいろな趣向が凝らされています。

ワインもかなり個性的なものが多くて、説明を聞くのも楽しいです。サービス担当の店員さんだけでなく、厨房の料理人さんたちも入れ替わり立ち替わり出てきてはサーブし説明する、というのがこの店に限らず現代北欧料理のひとつのスタイルみたい。高級店ではあるけれど、適度にカジュアルで、ゆったり料理の数々を堪能できました。最後の、ケメックスでいれてアラビアのカップに注いでくれたコーヒーが、ちょっとびっくりするほどおいしかったです。

料理に合わせる飲み物は、ワインのコースのほかに、ノンアルコールのコースというのもあって、こちらも興味をそそられました。どんな飲み物を(それもそんなに多種類で)合わせてくるのでしょうか。次回訪れる時は、ぜひ試してみたいと思います。

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restaurantask.com


Marv & Ben

コペンハーゲン中心部にある、わりと規模の大きいレストラン。やはり高級店の趣きですが、店員さんはいたってフレンドリーです。石を敷き詰めたお皿にちょこんと前菜が載っていたりして、ビジュアル的にもかなりアート志向の料理の数々。「石は食べないでね」的なジョークも交えつつのサービスも楽しかったです。ただ英語はかなり早口で、私のレベルでは聞き取りに苦労しました。

上記のaskもそうですけど、全体的に「禅」を感じるというか、懐石料理的というか、華やかさよりも素材重視というか、従来の西洋料理からはかなり大胆に離れたイメージだと思いました。味つけもかなり薄めです。ほとんど「滋味深い」といってもいいくらい。個人的にはとても好きなスタイルですけど、人によっては好みが分かれるかもしれません。

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https://www.marvogben.dk/


Manfreds

こちらもコペンハーゲンの、ぐっとカジュアルなお店。BGMもがんがんかかっていて、レストランというより居酒屋かワインバーみたいな雰囲気です。こちらのお店は野菜料理が中心のお任せメニューがあって、それに合わせてグラスワイン3杯のセットをつけることができます。

野菜料理が中心のお店ですが、名物はなぜか「タルタル(生肉のミンチのサラダみたいなの)」らしいです。ただこれはお任せメニューに入っていないので、別に注文しました(量があるので、小さめサイズで頼むといいです)。「肉々しさ」がまったくない、とても美味しいタルタルでした。

続く料理はキュウリやアンディーブのソテーとか、ヤーコンみたいな根菜のこれもソテーとか、タマネギを軽く煮込んだのにチーズを散らしてあるとか、かなりシンプルな調理法が多いです。味つけはマヨネーズかビネガー系ばかりでこちらもかなりシンプル。野菜料理が好きな方にはおすすめですけど、ちょっと単調に過ぎると感じるかもしれません。

ただ、野菜自体はほとんどがオーガニックのようで、しみじみ美味しい……そう、こちらも「滋味深い」あるいは「野趣あふれる」という形容がぴったりな料理の数々でした。ワインリストがかなり豊富なようなので、このお店はコースを選ばず、アラカルトで何品か選んで、みんなでワインをがぶがぶ、というのが正しい使い方なのかもしれません。

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manfreds.dk

北欧でも中国語が重宝した件について

先日、Twitterで以下のようなツイートに接して、とても共感しました。


もちろん現在では英語がもっとも「グローバル」な言語であることは言を俟たないのですが、中国語も意外なところで使えて重宝します。とくに安西はぢめさん(@lechantdesanges)がおっしゃるように、中国語圏以外、例えば欧州などでも、英語が中学一年生レベルの私にとっては、かなり心強い味方になってくれます。

イタリアを旅行中、さすがに食事に飽きてきて「ラーメンが食べたいな〜」と思った時、フィレンツェで中華料理店を見つけて入ったことがありました。店のおばちゃんは中国語(北京語)が通じて、麺料理もたくさんあって、適当に注文してみたら「それはイタリア人向けの味つけだから、あんたはこっちにしなさい」と中国語で「指導」してくれました。ありがたかったです。

今回も北欧をいろいろまわって、最後にヘルシンキ空港のトランジットでEUから「出境」したのですが、キャッシュレス・ペーパーレス、そして手続きの無人化・機械化がすごい勢いで進む北欧のこと、従来のように紙の搭乗券とパスポートを握りしめてイミグレ、というシステムではなくなっていて少々まごついていたら、目の前に“Hello 我帮您”と書かれた小さなカウンターが。

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www.finavia.fi

ここだけでなく、いくつか同じようなカウンターを空港内で見かけました。私は華人じゃないから申し訳ないな〜と思いつつもここで中国語で聞いてみたら、いろいろと親切に教えてくださいました。いや、やっぱり拙い英語に比べて格段に複雑で詳しいことが訊けます。う〜ん、本当に助かります。ありがとうございました。

www.travelweekly-china.com

ヘルシンキ・ヴァンター空港のウェブサイトには中国語版も日本語版もあるのですが、こうした空港内でのサービス情報は中国語が格段に充実しています(日本語版は一部が英語になっちゃう)。こうした有人の案内カウンターがあちこちに設置されているのも中国語だけでした。

Helsinki Airport | Finavia

フィンエアーは現在、この空港をアジアから欧州に行く際の「玄関口」として強力にアピールしていて、日本人観光客もかなり多いのですが、やはり今はそれを遙かに上回って中国語圏の観光客が多いんだなあと思うとともに、中国語の使い勝手の良さも改めて感じたのでした。

コペンハーゲンの「デニッシュ」三選

例によってこれも食べ歩きを極めた末の……というわけではなく、訪れた先でたまたま入ったお店のうち、印象に残ったものだけ備忘録的に。

コペンハーゲンに行ったらぜひ食べ歩きしてみたかったのが「デニッシュ」です。デニッシュ・ペストリーともいいますよね。要するにパイみたいなパン生地で、真ん中にジャムなんかが入っていたり、砂糖のアイシングなんかがかかっていたりする、お菓子みたいなパン。当のデンマークでは、ウィーンで発祥と伝えられているため“Wienerbrød(ウィーンのパン)”と呼ばれているそうです。

デニッシュ - Wikipedia

英国人ジャーナリストが、夫の転職を機にデンマークで一年暮らした体験をまとめた本『幸せってなんだっけ?』にこの「デニッシュ」の話が出てきて、その形容がとても美味しそうなんです。

まるで神の啓示にでもあったような体験だ。
「これ、ものすごく美味しい……」一口目を頬張ったままモゴモゴと言った。
乾いた生地や湿った生地がまだらにあって人工的な甘さのイギリスの「デニッシュ」とはまるで違う。ここのペストリーは軽いながらも風味豊かだ。一口食べるごとに甘さとワクワク感が広がり、複合的な風味が中から漏れ出てくる。カリッとしているけれど、口に入れるとソフトになり、それからしっとりとする。一瞬にして別世界に送り込まれてしまった。


幸せってなんだっけ? 世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年

というわけで、コペンハーゲンに着いてまず行ってみたのが、チェーン店のパン屋さん“Lagkagehuset”。イートインスペースが広くて、パン屋さんというより「スタバ」的なお店ですね。ここでは上記の本にも出てきた、定番のシナモンロール“Kanelsnegl”を食べてみました。

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美味しそう……と思ったんですけど、実際にはどっしり重くて、べっちゃりしていて、強烈に甘くて、う〜ん、これがほんとうに本場のデニッシュなの? とちょっと落胆しました。

Conditori La Glace

気を取り直して、次。Airbnbで探した宿のすぐそばに老舗の洋菓子店があって、通りかかった時は観光客で長蛇の列ができていました。これはと思って、地の利を活かして翌日朝八時の開店と同時に行ってみました。お客さん、ほとんどいません。

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こちらのお店はコーヒーがポットで供され、店員さんもとても親切です。朝なので次々焼き上がったケーキが運ばれてくるのを見ているのも楽しい。食べたのは、いかにも定番っぽいこのデニッシュです。

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これは……まさに「一瞬にして別世界に送り込まれてしま」いました。生地がこれまで食べたどのデニッシュとも違う味わいなのです。パイの層がものすごく多くて、そのぶん一層一層の生地が極限まで薄くて、結果フワフワかつサクサクという相反する要素を一緒に楽しめます。これはテイクアウトしない方がいいですね。持ち歩いているうちに粉々になってしまいそうです。

イースターが近いので、ニワトリやヒヨコやタマゴをモチーフにしたお菓子が多数売られていました。お土産に買いましたが、このタマゴのパックに入ったようなチョコレート、中にアーモンドのペーストが入っていて、すごく美味しかったです。

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Skt. Peders Bageri

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実は“Conditori La Glace”に行く前に、もっと早朝から空いているこちらのお店でデニッシュをひとつ買いました。お店の中では食べにくい雰囲気だったのでテイクアウトして、上記のお店に持ち込んだのです。台湾の屋台だったら厳しく「お断り!」と言われるところです。ごめんなさい。

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上記のお店に比べると、生地の「油脂感」は少なくて、もっと素朴な感じですけど、こちらも美味しかったです。真ん中のクリームはカスタードじゃなくて、何か独特の香りがついてる……これ、なんだったかな。どこかで接したことのある香りですけど、結局思い出せませんでした。で、ネットで検索してみたら、アーモンドでした。そうだ、杏仁豆腐を作る時の「杏仁霜」の香りだったのです。


Reinh. Van Hauen

デザイン美術館に向かう途中にあるこちらのお店も、パンやケーキを売るだけではなく、サンドイッチなどもあってイートインスペースが充実しています。

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こちらでは調子に乗って二種類食べました。コペンハーゲンのデニッシュは日本で売られている物に比べてかなり大きいのですが、こちらのお店のデニッシュは比較的小ぶりです。油脂もクリームも重くはなく、二つ食べても「楽勝」でした。

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ほかにもいくつか食べたんですけど、総じて生地の小麦粉の味が生きた、素朴な印象が強かったです。これに比べると日本で売られているデニッシュは、ジャムやトッピングや表面のナパージュ(薄く塗られたゼリーみたいなの)など、よりデコラティブな印象ですね。どちらも好きですけど、デコラティブではないものの生地の繊細さに職人技の凄みを見た“Conditori La Glace”のデニッシュがいちばん強く印象に残りました。

しまじまの旅 たびたびの旅 33 ……飛び込みでバレエを観に行く

コペンハーゲンの銀座歩行者天国」的なお買い物ストリート「ストロイエ」を歩いていたら、その終点に王立劇場の建物がありました。観光シーズンではないこの時期を狙ってか、市内はあちこちで改修中で、劇場前の広場も大規模に掘り返されていましたが、それでもこの偉容です。

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こんなところでオペラかバレエでも観てみたいなと「ダメもと」でウェブサイトを当たってみたら、何とオンラインでチケットを販売していました。当日の公演はさすがに売り切れだろうと思っていたら、二階席(バルコンと呼ばれる、一階席をぐるりと取り囲む席の上なので、実際には三階席)のいちばん後ろの列がたったひとつだけ売れ残っていたのでその場ですぐに購入です。

kglteater.dk

演目はバレエ。新しくできたオペラハウスの方にはミュージカルみたいなお芝居のチケットもあったのですが、デンマーク語は全く分からないので、バレエならまだ楽しめるかなと思って。演目は“Hübberiet”といって、シリーズもののようです。英語の解説を読んでも正直よく分からなかったのですが、まあいちおうジャケット着用で行ってきました。寒いのでその上からダウンジャケットをさらに羽織って。

チケットはネット決済後すぐにメールで届き、「プリントアウトの上、ご持参ください」と書いてあったので、近くの「キンコーズ」みたいなコピーショップをネットで探して、印刷しました。バーコードがあるので紙ではなくスマホ画面でもいいかなと思ったのですが、伝統の国立劇場だから……とちょっと身構えてしまいました。結局客席に入るところでバーコードリーダーで「ピッ」とやるだけの「もぎり」だったので、たぶんスマホ画面でも大丈夫だったのでしょうね。

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開演間のロビーでは、あちこちで飲み物など楽しむ紳士淑女のみなさまが。年齢層はかなり高めですが、意外にドレスアップしているというわけでもなさそう。ここに限らず、北欧の各国ではかなりフォーマルなレストランでもダウンジャケット姿という方が多かったです。なんといってもこの季節は寒すぎるから、ドレスコードも実利本位なんでしょうね。

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私もお上品にシャンパンなどグラスで。店員さんが「インターミッション(幕間かな?)があるけど、その時にも一杯どうですか」と勧めてくるので、上手く乗せられて注文しました。番号が打たれたレシートを渡され、幕間にロビーに出てくると、テーブルに番号とともに飲み物が置いてあって各自取る……という、合理的だけどあまり優雅ではないような気もするシステムでした。

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客席はこんな感じで、おお、この雰囲気は映画『ゴッドファーザーPart3』で観たような。お隣に座っていた老夫婦と「天井が低いですね〜」と笑い合いました。そう、この客席を取り囲むように配されている各階の席は柱や天井などで一部の視界が遮られるので、ネットでチケットを買うときも「ご注意! 舞台の一部が見えないことがあります」とアラートが入るのでした。

上演中は撮影禁止なので写真はありませんが、“Hübberiet”はバレエではあるけれど、演目と演目の間に、振り付け師と思しきおじさんがホスト役でバレエ関係者を登壇させ、その場で討論や解説をしたり、昔の映像を見たり、現役のバレエダンサーに即興で振り付けをしたり……という、とても斬新なバレエ・エンタテインメント的パフォーマンスでした。デンマーク語がまったく分からない上に、私はバレエも門外漢ですけど、それでもさすがに美しい……と思いました。

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幕間に、隣にいらした老夫婦から「デンマーク語、わかる? あなた、コペンハーゲンで何の仕事してるの?」と声をかけられました。旅行者で、今日たまたまチケットが手に入ったんですといったら「それは幸運でしたね。なかなか買えないから」。日本から来たといったら「何十年か前に知り合いをたずねて京都に行きました。その知り合いとは今でもメールのやり取りをしていて、お子さんは大阪フィルの団員で……楽器? さて、なんだったかな。オーボエかフルートか、そんなところ」などと話が盛り上がりました。

長い歴史の伝統が醸し出す重厚さと、現代のネットの便利さを十二分に体感できた一夜でした。

しまじまの旅 たびたびの旅 32 ……中国趣味あふれる「花やしき」

コペンハーゲンといえば「ほかを差し置いてそこかよ」とつっこまれそうですが、まず行ってみたかったのがチボリ公園です。だれかが「コペンハーゲン花やしき」と言っていましたが、なるほど、そんな感じ。適度にチープ感があって、ゆるい雰囲気がたまりません。

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入口を入ったすぐのところに「與民偕樂(民とともに楽しむ)」という『孟子』の言葉の扁額がかかった劇場があって、ちょうど上演が始まるところでした。サーカスのようなバレエのような不思議な演目。ニワトリやヒヨコが出てくるのはイースターが近いからかしら。

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園内にはジェットコースターやフライングカーペットなどおなじみのアトラクションも数多くあるのですが、なぜか中国趣味の建物が数多く配されています。チボリ公園の開園当初(1840年代)からこういう趣向だったのかどうかは分かりませんが、ヨーロッパでのシノワズリの流行と軌を一にしているのかもしれません。もしくはその後19世紀末のジャポニスムなども絡んでいるのかも。

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The Star Flyer という、古典的な「回転ブランコ」がありました。高いところからコペンハーゲンの街を見下ろしたら素敵だろうなと思って、30デンマーククローネのチケットを3枚買い、「ポケットの中を含め、一切のモノを持たないように」という注意を受けて、乗りました。

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しかし、椅子に座って、目の前のバーが固定され、自分でベルトを締めてから気づいたんですけど、椅子につながってる鎖やワイヤーが細い、細すぎる。にわかに怖ろしくなりましたが、すでに上昇を始めており、あとは……。ここが「花やしき」であることを忘れていました。これは空中散歩などというお気楽なものではありません。それに小雨も降ってきたし、寒いし。

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帰る頃にはそこここに電飾が灯っていました。今度は夏の爽やかな季節に訪れたいと思います。

しまじまの旅 たびたびの旅 31 ……ついに現金を使わず

ストックホルム中央駅からコペンハーゲン中央駅まで特急列車に乗りました。

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六時間以上ある旅程で疲れちゃうので、一等車に。一列三シートでゆったりです。Wi-Fiも使えます。

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早朝に出発する列車だったので、駅で軽く食べてから乗ったのですが、なんと朝食のお弁当が配られました。黒パンにチーズやハム、ヨーグルトやジュースに、ヴァローナのチョコレートまで。追加でパンも勧められましたが、遠慮しておきました。

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軽食を売っている食堂車みたいなのもあって、これだったら乗車前に腹ごしらえしておかなくてもよかったですね。

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ストックホルムからコペンハーゲンまでの直通便だったはずなのですが、なぜかコペンハーゲンの対岸、スウェーデン側のマルメーでみんな降りるようアナウンスがありました。そばにいた30歳くらいの青年に聞いてみたら「ここで列車を乗り換えろってさ。わけ分かんないよ」と「Fワード」込みで怒ってました。

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で、エーレ海峡の橋を渡って……

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窓がちょっとキタナイ……観光地以外ではこれ、定番ですね。

コペンハーゲンに無事つきました。

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そういえば、スウェーデン滞在中に、ついに一度も現金を使いませんでした。ユーロから両替することさえ忘れていました。書店も屋台もカフェも移動手段もレストランも。北欧はどこも(いやもう日本以外はといってもいいのかしら)キャッシュレス化が進んでいます。

クレジットカードは、AMEXは使えるところと使えないところが半々*1、VISAはどこでも使えて最強でした。カードはICチップつきじゃないとダメなことがままあり、PINコード入力も必須な場合がほとんどです。

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これは最近日本でも普及してきましたが、スーパーのセルフレジもすごく便利です。レジ袋も大きさ別に有料というのもいいなと思いました。

どんなに少額の支払いでも、カード払いができるのはいいですね。特に小銭を持ち歩かなくていいのが素晴らしいです。日本ではまだまだここまで普及していないし、少額の支払いを断られるお店も多いですから、遅れていると思います。

*1:地下鉄の駅の窓口で、SLアクセスカードという「Suica」みたいなカードをAMEXで買おうとしたら断られました。ところが目の前にあるキオスクでも買えて、そちらはAMEXもオーケーでした。駅員さんが「そっちのキオスクならOKだよ」などと言ってくれないところが海外旅行の醍醐味です。私の守備範囲じゃないからということですね。

しまじまの旅 たびたびの旅 30 ……スーパーの棚にフェティシズムを感じる

むかしもいまも、スーパーマーケットが大好きです。あの見渡す限り野菜や肉や魚や食料品などが並んでいる光景を見ると、アドレナリンが分泌されるのが分かります。書店の大きな本棚を目の前にした時の興奮と通じるものがあります。特に買いたいとか、食べたいというのとはちょっと違って、同じカテゴリーの食品なり書籍なりがモザイク状に並んでいるのになにかこう「美」を感じるのです。

劉勃麟(リウ・ボーリン)という中国の芸術家がいます。この人は「看不見的人(見えない人)」という、自らにペイントを施して風景の中に自分を溶け込ませるようにした一連の作品で知られています。その彼が執拗に(?)スーパーマーケットの棚のまで作品を作っているのを見て、ああ、この方がこの光景に惹かれるの分かるわ〜、と勝手に共感しています。ちなみに、書店の雑誌の前などでも同じような作品を作っています。

劉勃麟 - 維基百科,自由的百科全書
Liu Bolin supermarket - Google 検索

もうひとり、Wayne Thiebaud(ウェイン・ティーボー)というアメリカの芸術家がいます。この人も食品が陳列された光景をなかば偏執狂的に繰り返し描く作品群が有名で、特にアイスクリームやケーキなど甘いものが並んでいるのがお好きみたいです。その画面はやや狂気を感じなくもないのですが、なぜか心惹かれてしまうのです。

Wayne Thiebaud - Wikipedia
Wayne Thiebaud - Google 検索

というわけで、旅に出るとその土地のスーパーマーケットを見て回るのが楽しみのひとつです。ストックホルムでもいくつか行きましたが、いちばん心ときめいたのはこのCOOPというチェーン店でした。この街に暮らして、このスーパーで買い物をしたら、どんな夕飯を作るかななどと考えながら見て回るのが楽しいのです。

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ガムラスタン駅の地下改札前にあるこちらの小さなスーパーも、なかなか見ごたえがありました。北欧らしく、キャンドル売り場が充実しているのも面白いです。

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ウェイン・ティーボーの気持ちになって、カフェのショーケースも。店員さんの視線が冷ややかなので、少なめです。

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あんた何やってるの、と犬にも冷ややかな視線を送られました。カフェも犬同伴でオーケーなんですね。地下鉄や電車でも当たり前に乗っていました。

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おまけに、ストックホルム近代美術館の「ロシア・アヴァンギャルド」のポスターコレクション。こういう展示方法もスーパーマーケットの棚に通じるものがあって、萌えます。

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しまじまの旅 たびたびの旅 29 ……ストックホルムのケバブ

タリンクシリヤラインを紹介してくれた留学生とは別の、もうひとりのスウェーデン留学生にも「ストックホルムでおいしい物といったら何ですか?」と聞いてみました。お答えは「サーモンとかミートボールとかですね」……まあ、そうでしょうねえ。それなら日本のIKEAでも食べられるかなとも思いましたが、いちおう旧市街のガムラスタンにある老舗レストランに行ってきました。

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ミートボールにコケモモ(リンゴンベリー)のジャムがついてくるのも北欧ならではです。

くだんの留学生に「ほかに何かこう、ストックホルムならではの『これは食べとけ!』的なものはないですか?」と食い下がると、「そうだ、ケバブがおいしいです」とのお答え。ケバブ? なぜスウェーデンケバブ? と思いましたが、確かヨーロッパでは移民が持ち込んだ文化の一つとして、とても流行していたはず。じゃんぽ〜る西氏のパリを描いたマンガにも出てきたのを思い出しました。


パリの迷い方

というわけで、ストックホルムに着いてからネットの情報を渉猟してみると、泊まっている宿から徒歩10分くらいの所に、面白そうなお店がありました。

meatonastick.se

MOAS(meat on a stick)って、棒に刺した肉? つまりドネルケバブのことかしら? 店名は英語なんですけど、ウェブサイトを見ると説明はスウェーデン語のみ。Google翻訳にかければ何とか分かりますが、何もかもはっきり分からないのがかえって面白そうなので、予約なしで出かけてみることにしました。

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間口の狭い小さなお店ですが、人気店らしく満員です。見たところお若い方ばかり。でも運良く空いていた入口脇の席に入れてくれました。

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お兄さん、パンツ見えてます。

外見はエド・シーランっぽい店員さんが「メニュー(こちら)はスウェーデン語しかないので英語で説明しますね」と、とても親切です。「左上からチキン、ラムとビーフ、ポーク。それぞれ3種類ずつあって、ひとつめがベーシックなもの。ふたつめがうちの一番人気。野菜は……、ソースは……」とこちらが恐縮するくらい細かく説明してくれました。というわけで、チキンのふたつめにある“VALENCIA”と、ビール(これも味わいを細かく説明してくれました)の“Mazarin”を選びました。スウェーデンクラフトビールらしいです。

もうひとりの、アンドリュー・ワイルズっぽい店員さんは「こんにちは〜、どういたしまして〜」といくつか日本語を話すので、日本に行ったことがあるんですか? 日本語はどこで? と聞いてみたら、「行ったことはないけど、興味があって日本語を独学でちょっと学んだ」と言っていました。「お客さんに味はいいかどうか聞く時の日本語を教えて」と言うので「おいしいですか?」を教えました。

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しばしあって、“VALENCIA”登場。ちょっとたじろぐくらいのボリュームです。周りの若い人たちは、これにサイドメニューのフライドポテトをつけてたりするからすごい。中身がこぼれるのでピタパンが「自立」できるように作られたこの金属のトレーが面白いですね。とてもかぶりつけそうにないので、フォークを頼みました(最初からはついてきません)。

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で、お味。いや、これがもう、自分の中にあるドネルケバブの概念が大きく変わるほどの、衝撃のおいしさでした。上品、というわけではないんですけど、脂っこくなくて、いろいろな野菜やハーブやピクルスの味がして、ドレッシングのようなマヨネーズのようなソースが全体に絡んでクリーミー。これは人気になるのもうなずけます。あの店員さんが「おいしいですか?」と聞くので「おいしいです!」と答えました。

このほかストックホルムでは、クリスマスからイースターくらいまでのこの時期にしか食べられない「セムラ」というお菓子も食べました。シュークリームに似たパン生地のお菓子。中にカルダモン風味のペーストが入っています。これもネットで調べて知ったたべもの。スウェーデンの留学生ふたりは、どうも甘党ではなかったみたいですね。

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しまじまの旅 たびたびの旅 28 ……庶民的な豪華客船

フィンランドヘルシンキから、スウェーデンストックホルムまで、船に乗りました。勤務している学校のスウェーデン人留学生から「楽しいですよ〜。食べ放題のビュッフェが有名なんです」とおすすめされたのです。日本では「食べ放題」の代名詞になっちゃった「バイキング料理」ですが、その「本家」が食べられるわけですね。

乗ったのはタリンクシリヤラインの「シンフォニー号」。見た目は豪華客船ですが、運賃からしても、船内の雰囲気からもしても、そしてお客さんたち(子供がやたら多いです。早めのイースター休暇かな?)の超カジュアルないでたちからしても(失礼)、なんかこう、とても庶民的な雰囲気。

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さりげなく「ムーミン推し」。

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船室もコンパクトでシャワーもついているし、大きな船だからほとんど揺れないし、とても快適でした。

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予約の関係で、乗船後すぐにビュッフェ開始。ちょっと落ち着きませんが。

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西日がすごい〜。

スモークサーモンは肉厚で柔らかくて、さすがにおいしいと思いました。ほかは……まあ普通のビュッフェですね。でも品数はとても多いですし、量もたっぷり用意されています。デザートやチーズもたっぷり。ビールやワインやソフトドリンクも飲み放題。お若い方は狂喜乱舞するんじゃないかしら。ただ私は情けないことに食が細くなってる中高年ですので、すぐ満腹になってしまいました。もう「放題」は卒業して、「いいものをちょっとだけ」的スノッブなオジサンを目指したいところです。

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上のこの写真だと、とても落ち着いた船内に見えますが、実際にはかなり騒々しかったです。食べ放題で大人たちの「食べ散らかしっぷり」がすごいのは洋の東西を問わないんだなと思いました。あと、お子ちゃまたちの「はしゃぎっぷり」も半端ありません。まあ、こういう客船に乗ったら絶対に興奮しますよね。お子ちゃまたちは見渡す限り、みんな上品なスモークサーモンやオードブル系には見向きもせず、ソーセージとミートボールとフライドポテトを山盛りにして食べてるのがカワイイです。あと最初からアイスクリームとか。

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食後には、お子ちゃまたちにだけ、ムーミンの「ぬりえセット」みたいなのが配られていました。いいな〜。

ダンスショーやライブもあちこちでやってます。鑑賞は無料ですが、飲み物食べ物は別料金。ステージはABBAなんかやっちゃったりして、キャッチーでダンサブルなナンバーが目白押しの「濃ゆい」内容でした。ひとりでギターを弾いていたお兄さんは、フットスイッチを巧みに使い、自分の声を数度上げ下げして「ハモり」状態を作っていて、すごく上手です。ああいうエフェクト装置があるんですね。

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外は流氷の浮くバルト海。寒いのでデッキにはほとんど出ませんでしたが、夕日がとてもきれいでした。

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しまじまの旅 たびたびの旅 27 ……ムーミンとムラカミ推し

先般、大学入試センター試験で「ムーミン」を扱った問題が話題になっていました。

mainichi.jp

ヘルシンキでは、当然のようにムーミンがそこここで見られました。テレビアニメもムーミン(かつて日本で作られたものではなく、オリジナルのようです)、お土産ものもムーミン

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市内最大(らしい)のアカデミア書店でも、ムーミンコーナーが大充実。

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センター試験では、ムーミンフィンランド語を結びつける選択がいちおう正解だったそうですが、ムーミンの作者トーベ・ヤンソン氏は、この作品を母語であるスウェーデン語で書いているんですよね。Wikipediaにあたってみたら、氏は「フィンランドヘルシンキに生まれたスウェーデン語系フィンランド人」だそう。お隣さんとはいえ、スウェーデン語はインド・ヨーロッパ語族で、フィンランド語はウラル語族だそうですから、まったく系統の違う言語です。

トーベ・ヤンソン - Wikipedia

書店では、大好きな『ムーミン谷の彗星』を買いました(読めないけど)。右側がオリジナルのスウェーデン語版。左側はフィンランド語版で、見開きには“Suomentanut”の文字があります。“Suomiスオミ)”がフィンランド語のことだから、たぶん「フィンランド語への翻訳」という意味なんでしょう*1

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ムーミンフィンランドを代表する作品群ですけれど、そのオリジナルはスウェーデン語だというのは、フィンランドの方にとってはちょっと複雑な気分になりはしないですかね。そういえば、書店でいろいろと見て回っていて分かったのですが、フィンランド語の本と同じか、むしろそれより多いくらい並んでいるのは英語の本でした。

ヘルシンキでは、どこでも英語が通じました。社会全体の成り立ちとしても、書店の棚からも、もはや英語抜きではまわっていかないというフィンランドの言語事情をほんの少しだけ垣間見た気がしました。このあたり、ほぼ単一言語で高等教育までまかなえてしまう日本の私たちには想像が難しい部分だと思います。

もちろん、フィンランドでもフィンランド語による高等教育は行われてはいるそうです。その点では、植民地支配の結果、英語がかなりのステイタスを持ってしまったフィリピンやインドなどの国々とは状況が違うと思います。むしろ、言語の系統からは遠く離れた英語をここまで教育して使えるようにし、一方で母語フィンランド語もかなりの存在感を残しているというこの国のあり方には、日本の私たちもいろいろと学ぶべき点があるかもしれません。

ところで、私はささやかな趣味として、海外の旅先では村上春樹氏の翻訳本を買うのを楽しみにしています。いちばん好きな『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の各言語版を集めているのです。今の時代、ネットで探して注文すればすぐに手に入るでしょうけど、旅先で書店を探して文学の棚を渉猟しながら、見つけることができたら買う、なかったらあきらめる、というのが楽しい。ほかにも、意外な作品の翻訳版が見つかったりしますし。

……が、このヘルシンキ最大の書店には英語版の村上作品しか置かれていませんでした。英国で出版されたものです。もしやと思ってその場で「ぐぐって」みると、村上春樹作品はまだあまりフィンランド語に翻訳されていないとのこと。フィンランド語版があるのは、フィンランドが舞台の一部になっている『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』くらいだそうです。

英語版は持っているので購入をあきらめ、スーツケースを預けてあるヘルシンキ中央駅のコインロッカーに向かう途中、駅の小さなブックコーナーを見つけて入ってみました。すると……おおお、これはフィンランド語版の『世界の終わりと……』じゃないですか。なんだ、あるじゃない! なんという僥倖。

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この小さなお店は、手作りのポップまで作って「ムラカミ」推しでした。ほかにもフィンランド語版の村上春樹作品がたくさんあります。ネットでの調べ方が甘かったですね。

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う〜ん、日頃学校の生徒さんたちには「Googleの検索結果を過信しちゃダメです!」などと言っているのに、自分がその轍を踏んであやうく買いそびれるところでした。いや、いい教訓になりました。

*1:試みにGoogle翻訳にかけてみたら「翻訳」とだけ出ました。

しまじまの旅 たびたびの旅 26 ……アルヴァ・アアルト自邸

ヘルシンキを訪れたら、ぜひ行ってみたかったのがアルヴァ・アアルト氏の自邸です。アアルトといえば、フィンランディア・ホールや、イッタラで製品化されているあの「ぐにゃぐにゃフォルム」の花瓶、妻のアイノ・アアルトがデザインしたタンブラーなどが有名で、学生時代から大好きだった建築家・デザイナーの一人でした。

アルヴァ・アールト - Wikipedia

www.iittala.com

ヘルシンキの郊外にある“The Aalto House”はアアルトが自宅兼事務所として建てたモダニズム建築。ウェブサイトを見ると一時間のガイドツアーをやっているそうです。スマホから予約してカードで支払いをしたら、すぐに確認のメールが届いたので、GoogleMapで検索したトラムとバスを乗り継いで行ってきました。

https://shop.alvaraalto.fi/en/tuote/guided-tour-the-aalto-house/

普通の住宅街に家はあります。ツアーには、私のほかにスウェーデン人とおぼしきご夫婦二組が参加していました。ほかに予約なしで来た方が一人いたんですけど、断られていたので、やはり予約はしておいた方がよいみたいです。

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ツアーの言語は英語ですけど、建築やデザインに関する用語や、画家やデザイナーの名前や作品名など、聞き覚えのある語彙が多く、案内をしてくれた女性*1も英語が母語ではないようだったので、とても分かりやすかったです。

アイノ・アアルトのタンブラーが食器棚に並んでいました。案内の女性によると、このデザインは石を水に投げ込んだ時の波紋からデザインしたのだそうです。

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二階のリビングには、アルヴァ・アアルト自身が書いた曲線がうねるような抽象画が何枚か掛かっていて、この絵を指して案内の女性が「ナミ、ナミ」というので何だろうと思ったら「波」でした。フィンランド語で「アアルト(aalto)」は「波」という意味なんだそうです。へええ、初めて知りました。

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それにしても、このモダンさはどうですか。壁にはほとんどベニヤ板みたいな木材や麻のような布(ジュートだといっていました)が使われていて、質素でシンプルな印象です。でもよく見ると、合板を曲げて椅子の骨組みにしている素材や、細くて上部がカーブした木材をいくつも合わせて貝のようなフォルムを作っているテーブルの脚など、細かいところに工芸的に高度な手法が用いられています(下の写真の椅子とテーブル)。

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窓が大きくて、木製のサッシというのがいいですね。暖房がしっかり効いた室内に新鮮な空気を取り入れるための細長いベンチレーションが窓枠の下についていたり、大きな窓を掃除するために窓全体を開ける時に使うレバーの穴があったり*2、いろいろと工夫されています。

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特にこれら寝室のデザインは、現代の住宅写真といっても通じるくらい洗練されています。家具や調度品もほとんどがアアルト自身によるデザインだそうです。フィンランドのデザインはマリメッコやアラビアなどのカラフルで大胆な色彩やパターンも魅力ですが、こういうほとんど「禅」的にさえ感じるほどのシンプルさにも惹かれます。


ディドリシュセン美術館

その先の“Kuusisaari*3”島にあるディドリシュセン美術館にも行ってきました。個人のコレクションを、これまた個人の自邸(別荘かな?)で展示しているという感じの小さな美術館。ソファに座って本を読んだりできますし、小さなミュージアムショップでコーヒーやケーキなども売られていて、落ち着きます。こちらも静かな住宅街(のはずれ)なので、観光客もほとんどいませんでした。まあこの寒い時期はもとより観光客も少ないんでしょうけど。

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美術館の裏手は海ですが、まだ一面凍りついています。島なんですけど、周囲がすべて凍りついているので、あまり島にきたという感じはしませんね。

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*1:この女性とは翌日、ヘルシンキ市内のデザイン美術館で偶然再会しました。両方で働いているんだそうです。

*2:このレバーは、ふだんは側面の小さな窓を開けるためについているのですが、大きな窓の下部にもつけ替えることができるようになっているそうです。そういえば泊まっている宿の窓も同じような仕様になっていました。

*3:クーシサーリ? フィンランド語は同じ母音が二つ続く語彙が多いみたいですね。