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しまじまの旅 たびたびの旅 26 ……アルヴァ・アアルト自邸

ヘルシンキを訪れたら、ぜひ行ってみたかったのがアルヴァ・アアルト氏の自邸です。アアルトといえば、フィンランディア・ホールや、イッタラで製品化されているあの「ぐにゃぐにゃフォルム」の花瓶、妻のアイノ・アアルトがデザインしたタンブラーなどが有名で、学生時代から大好きだった建築家・デザイナーの一人でした。

アルヴァ・アールト - Wikipedia

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ヘルシンキの郊外にある“The Aalto House”はアアルトが自宅兼事務所として建てたモダニズム建築。ウェブサイトを見ると一時間のガイドツアーをやっているそうです。スマホから予約してカードで支払いをしたら、すぐに確認のメールが届いたので、GoogleMapで検索したトラムとバスを乗り継いで行ってきました。

https://shop.alvaraalto.fi/en/tuote/guided-tour-the-aalto-house/

普通の住宅街に家はあります。ツアーには、私のほかにスウェーデン人とおぼしきご夫婦二組が参加していました。ほかに予約なしで来た方が一人いたんですけど、断られていたので、やはり予約はしておいた方がよいみたいです。

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ツアーの言語は英語ですけど、建築やデザインに関する用語や、画家やデザイナーの名前や作品名など、聞き覚えのある語彙が多く、案内をしてくれた女性*1も英語が母語ではないようだったので、とても分かりやすかったです。

アイノ・アアルトのタンブラーが食器棚に並んでいました。案内の女性によると、このデザインは石を水に投げ込んだ時の波紋からデザインしたのだそうです。

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二階のリビングには、アルヴァ・アアルト自身が書いた曲線がうねるような抽象画が何枚か掛かっていて、この絵を指して案内の女性が「ナミ、ナミ」というので何だろうと思ったら「波」でした。フィンランド語で「アアルト(aalto)」は「波」という意味なんだそうです。へええ、初めて知りました。

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それにしても、このモダンさはどうですか。壁にはほとんどベニヤ板みたいな木材や麻のような布(ジュートだといっていました)が使われていて、質素でシンプルな印象です。でもよく見ると、合板を曲げて椅子の骨組みにしている素材や、細くて上部がカーブした木材をいくつも合わせて貝のようなフォルムを作っているテーブルの脚など、細かいところに工芸的に高度な手法が用いられています(下の写真の椅子とテーブル)。

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窓が大きくて、木製のサッシというのがいいですね。暖房がしっかり効いた室内に新鮮な空気を取り入れるための細長いベンチレーションが窓枠の下についていたり、大きな窓を掃除するために窓全体を開ける時に使うレバーの穴があったり*2、いろいろと工夫されています。

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特にこれら寝室のデザインは、現代の住宅写真といっても通じるくらい洗練されています。家具や調度品もほとんどがアアルト自身によるデザインだそうです。フィンランドのデザインはマリメッコやアラビアなどのカラフルで大胆な色彩やパターンも魅力ですが、こういうほとんど「禅」的にさえ感じるほどのシンプルさにも惹かれます。


ディドリシュセン美術館

その先の“Kuusisaari*3”島にあるディドリシュセン美術館にも行ってきました。個人のコレクションを、これまた個人の自邸(別荘かな?)で展示しているという感じの小さな美術館。ソファに座って本を読んだりできますし、小さなミュージアムショップでコーヒーやケーキなども売られていて、落ち着きます。こちらも静かな住宅街(のはずれ)なので、観光客もほとんどいませんでした。まあこの寒い時期はもとより観光客も少ないんでしょうけど。

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美術館の裏手は海ですが、まだ一面凍りついています。島なんですけど、周囲がすべて凍りついているので、あまり島にきたという感じはしませんね。

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*1:この女性とは翌日、ヘルシンキ市内のデザイン美術館で偶然再会しました。両方で働いているんだそうです。

*2:このレバーは、ふだんは側面の小さな窓を開けるためについているのですが、大きな窓の下部にもつけ替えることができるようになっているそうです。そういえば泊まっている宿の窓も同じような仕様になっていました。

*3:クーシサーリ? フィンランド語は同じ母音が二つ続く語彙が多いみたいですね。