インタプリタかなくぎ流

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放送禁止用語を使っちゃった

今週は通訳者の話題で一時ネットが盛り上がっていました。サッカーワールドカップにおけるアルゼンチンの選手へのインタビューで、スペイン語の同時通訳者が繰り返し「放送禁止用語」と使ったという話題です。


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個人的にはこういう「言葉狩り」的な論調はあまり好きではなく、それよりも発言者がその言葉を差別的な意識を持って使ったのかどうかという点にこそフォーカスすべきではないかと思っています。また、生同通(生放送の同時通訳)という極度の緊張の中で伝えなければならない通訳者さんのご苦労も理解できるので、あまり目くじらを立てるのもどうかとも思います。

ただまあ、公共の電波を使って放送を行っている立場としては完全にNGということになるのでしょうし、他の言葉でも十分に言い換えられるたぐいの言葉ですから、なにもことさら「アレ」を使わなくても良かったのではないかと思いました。外野からは無責任に何でも言えますけど。

通訳の仕事をしているときにこういう言葉に遭遇した経験は私にはありません。ただ会議が荒れに荒れて、日本側の発言者が机を叩いて「冗談じゃないですよ!」と怒った……という場面はありました。私は“別開玩笑了!”と訳しましたけど、それが火に油を注いだかどうかは不明ながら、さらに会議が荒れました。わははは。

これはまさに厳しい交渉の席でのネガティブな発言ですけど、くだんのサッカーのインタビューは嬉しさを表現しているくだりですから、だったらなおさら危うい言葉は使わなくてもよかったのではないかと思います。せめて「狂ったように喜んでいると思います」とか「みんな踊り狂っていると思います」などと……え、「狂った」も放送的にはよろしくない? だったら「狂喜乱舞していると思います」とか……文章の翻訳ならまだしも、それじゃ堅すぎる? 難しいですね。


https://www.irasutoya.com/2016/04/blog-post_294.html