インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

超ハイテンションな通訳者

通訳教材のネタを探してYouTubeをさまよっていたら、おもしろい動画を見つけました。ハイテンションかつ暑苦しいピン芸が特徴の、サンシャイン池崎氏の「通訳」をネタにした動画です。

www.youtube.com

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俳優のカイル・カード氏が通訳者役で後ろに控えているのですが、池崎氏が絶叫するセリフをことごとく英語に訳しています。しかも訳すだけじゃなくて動きやテンションまで一緒。とことん同じように演じて言語だけが入れ替わるところに笑ってしまうのです。

かねてから、こうしたお笑い芸人さんのコントやCMなどに登場する通訳者が、たいていローテンションかつ事務的な口調で描かれる傾向があることに興味を持っていました。黒縁の眼鏡をかけていたり、ダークスーツに身を包んでいたり、総じてクールな印象。これはつまり、世間の方々が「通訳者ってこういう感じだよね」という漠然としたイメージを反映しているのではないかと思うのです。*1

確かにそんな感じで訳す通訳者は多いと思いますが、私は時と場合に応じてもう少し「活き活き」と訳してもいい、そういう訳出が求められる場合もあると思っています。もちろん「やりすぎ」は禁物ですし、そもそも滑稽でもあるのですが。

クールでローテンションな通訳者のイメージを打ち破った例としては、かつてサッカー日本代表の監督を務めたフィリップ・トルシエ氏の専属通訳者だったフローラン・ダバディ氏でしょうか。しかしこれも「通訳者なのに、原発言者より目立ってる」という点で話題になったところをみると、やはり通訳者は控えめであるべきという共通認識が人々の間にはあるのかもしれません。

上掲の動画に出てくる通訳者はダバディ氏どころの騒ぎではなく、ある種突き抜けたテンションです。しかも動画を見ると必ずしも仕込んだネタばかりではなく、その場でムチャぶりされたギャグを英語に訳しているところもあって、これはもう通訳の作業そのもの。

もちろんこれを何らかの「参考」にするというつもりもないのですが、通訳者はとかくクールでローテンションというイメージを強化する動画が多い中でとても新鮮に映りました。生徒さんにも見て笑ってもらって、そこからなにがしかの気づきを得てくれたらいいなと……バカバカしすぎて気づきもへったくれもないと言われそうですけど。



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*1:上掲の動画は逐次通訳形式なんですけど、動画では「同時通訳」と書かれています。これも「あるある」。なぜか一般に逐次通訳と同時通訳の区別はあまりよく認識されていないようなのです。