先日Twitterで「 #一般人の方が時々誤解しておられること*1」というハッシュタグを見かけ、私もこんなツイートをしました。
話せれば、訳せる。#一般人の方が時々誤解しておられること pic.twitter.com/ywcRh2KUaj
— 徳久圭 (@QianChong) 2018年7月18日
「話せれば訳せる」は通訳者に対する誤解の最たるものだと思いますが、他にも一般の方の通訳者に対する誤解、あるいは通訳者に対して抱いているイメージにはどこか共通しているものがあるように思います。
クールでローテンションな通訳者
そうした共通のイメージ、言い換えればステロタイプな通訳者像は、ネット動画からもうかがい知ることができます。以下は私が通訳学校の授業で「反面教師」として紹介しているものです。
LIXIL ユニバーサル社会インタビュー直訳篇
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どうでしょう。通訳者はクールで冷静、かつ“低調(ローテンション)”で、どこか抑揚をおさえた一本調子で話し、冗談などあまり通じそうにない……というイメージが垣間見えませんか? タイトルからして「直訳篇」ですしね。そんなことない?
ライオン トップ NANOX 犬語を通訳篇
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「犬語通訳」という実際にはあり得ない設定ですが、ベッキー氏の造形はビジネススーツに身を包み、大きな黒眼鏡をかけ、とてもクールなイメージです。話し方もやはり抑揚や感情を抑えた感じですね。
タウンワーク 通訳編
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この松本人志氏の「通訳者」はちょっとギャグが入っていて上記二本とは雰囲気は違いますが、やはり最初は抑揚のない、どこか不機嫌にさえ見えるような佇まいです。話者の後ろでぼそぼそ喋る通訳者、というステロタイプなイメージとでもいいましょうか。
フロントラインプラス 猫翻訳家篇
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フロントラインプラス 犬翻訳家篇
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この二本も、ベッキー氏と同じような造形がなされています。うーん、これが一般に流布されている通訳者のイメージなんですね。あとこの通訳者さんは「〇〇だそうです」と三人称で訳されていますが、原則的にはこういう訳し方はせず、原発言者(ここでは猫さんと犬さんですが)に成り代わって一人称で訳します。まあ「ノミ・マダニ対策はフロントラインプラスだニャ」みたいな感じでしょうか。
友近「同時通訳」
『同時通訳』
— 漫才、集めました!! (@Owarai_manzai_) 2017年3月19日
友近 pic.twitter.com/D9NrF3y0jt
お笑い芸人の友近氏が演じる同時通訳者です。実際にはこんなふうにスタンドマイクの前に立って手ぶらで同時通訳をすることはまずありえないんですけど、まあそれはコントということで。
これもどこか上掲の動画に通じるものがありますね。通訳者は「ちょっと「エラそー」……というのも、そのひとつ。また「素」の時は活き活き話しているのに、同時通訳に入ると途端にクールでローテンションになっちゃうというのも典型的です。
こうしたカリカチュアが多数登場するということは、やはり一般の方が接する少なからぬ通訳者がこういうパフォーマンスをしているということの反映なのでしょう。でもこれは通訳学校で恩師が強調されていたことでもあるのですが、通訳者のパフォーマンスがこういうものだと思われたくないですし、そこに甘んじてはいけないと思います。
私自身としては、時と場合にもよりますけど、もう少し「血の通った」というか、活き活きと、そして普通に聞きやすい訳出を心がけたい——「反面教師」とするゆえんです。
通訳者に対する不満
さらに興味深いのは、通訳者に対するある種の疑念なり不満なりクレームなりが笑いに転化されている動画です。
LIXIL ユニバーサル社会インタビューアドリブ篇
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こちらは「通訳が勝手に訳しちゃう&そこ訳さなくていい」問題。ちょこっと喋っただけなのに、通訳者がいやに長く訳す……「何か余計なことをつけ加えてんじゃないの?」という疑念ですね。
三井住友海上 大統領になる濱田岳篇
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「それだけ?」……これは逆に「勝手に端折ってるんじゃないの&きちんと訳してくれない」問題。いや、笑ってばかりもいられません。
ラニーノーズ「通訳」
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「直訳が過ぎる」問題です。これもまあお笑いのネタですからいいんですけど、それでも先ほどのリクシルの動画で出てきた「そこ訳さなくていい」と通底する問題が見て取れます。通訳者は基本的に聞こえてきた全てを訳すというのも意外に一般の方に理解されておらず、「まあ適当にまとめて訳してよ」とか「簡潔に訳して」と言われて困ることがたまにあるんですね。でも私たちに取捨選択の権利はないのです。
ゆりやんレトリィバァ「通訳士・吉原モカインタビュー」
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これは……まあ笑って楽しみましょう。「通訳士」という呼称がちょいとひっかかりますけど。
最牛的日语翻译
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最後は「おまけ」で、中国の「抗日ドラマ」ふうコントに登場する通訳者(すでに通訳者ですらありませんが)です。こういうカリカチュアが存在するということは、彼の地でも、通訳者に対するステロタイプなイメージが一定程度存在するということでしょうかね。
*1:尊敬語ならば「誤解していらっしゃる」の方が自然だと思いますが、ネットで調べてみると、どちらも大丈夫なよう。参考:「おる」「おられる」「いらっしゃる」正しい使い方と違い | マナラボ