インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

フィンランド語 143 …口語ことはじめ

二冊目の教科書の最後に、フィンランド語の口語に関する初歩的な解説が載っていました。これまで延々文法を学んできて、最後に「でも実際に話されるときにはまた別の形があるんですよね」と奈落の底に突き落とすような感じ、嫌いじゃないです。人間の話す言葉ですから、こうでなくてはいけません(でも内心ショックが大きい)。

かつて中国に留学したときも、最初は「教科書で学んだのとかなり違う! 聴き取れない!」と焦ったものでした。ただ中国語のそれは単にネイティブスピーカーが速くしゃべっていて、教科書や教科書についている音声のようにハッキリクッキリ発音してくれないからという側面が大きかったように思いますが、フィンランド語の場合は口語バージョンになるとかなり形が変わるものもあるようです。

まず、人称代名詞に関していくつかの例が載っていました。属格・分格・所格(接格)の口語バージョンです。括弧内はこれまでに学んだスタンダードな言い方。

属格 分格 所格
一人称単数 mun(minun) mua(minua) minulla(mulla)
二人称単数 sun(sinun) sua(sinua) sinulla(sulla)
三人称単数 hänen(sen) häntä(sitä) hänellä(sillä)
一人称複数 meidän meitä meillä
二人称複数 teidän teitä teillä
三人称複数 niiden(heidän) niitä(heitä) niillä(heillä)

一人称と二人称の単数は口語になると“in”が落ちるんですね。逆に一人称と二人称の複数は変わらず。いちばん混乱しそうなのが三人称の単数と複数です。彼/彼女、彼ら/彼女らの形なのに、“se(それ)”や“ne(それら)”の格変化と同じになっちゃうんですね。まあこれらは自分では言わなくても,相手が言ったときにその文脈で判断できるようにならなければなりません。

先生によるとこの表では変化していない一人称と二人称の複数も,人によっては“meidän”が“meiän”、“teidän”が“teiän”のようになるそうです。総じて口語では“d”の音が落ちやすいということでしょうか。数字の“kahdeksän(8)”も“kaheksän”、“yhdeksan(9)”も“yheksan”と言われたり、“lähdetään(出発しましょう)”も“lähetään”、“odota(待て)”も“oota”などと言われると。確かに“d”を外した方がスムーズに発音できそうです。言葉の経済性というやつですね。

また人称代名詞と動詞の組み合わせでも、口語では劇的に変化が起こります。

人称代名詞 olla(いる・ある) mennä (行く) tulla(来る)
mä(minä) oon(olen) meen(menen) tuun(tulen)
sä(sinä) oot(olet) meet(menet) tuut(tulet)
se(hän) on menee tulee
me ollaan(olemme) mennään(menemme) tullaan(tulemme)
te ootte(olette) meette(menette) tuutte(tulette)
ne(he) on(ovat) menee(menevät) tulee(tulevät)

三人称単数は変化がありませんが、三人称複数の変化が半端ありません。変化というか、三人称単数と同じ形になっています。これらは例えば現在完了形でも口語の形があって“olen sanonut”が“oon sanonu”になったりするとのこと。これまで必死に覚えてきた過去分詞まであっさり変わってしまうのですから、さすがは「悪魔の言語」です。

というわけで、今まで学んできた標準的な(?)文章も口語ではこうなることが多いそうです。

Minä rakastan sinua. → Mä rakastan sua.
私はあなたを愛しています。
Minulla on kissa. → Mulla on kissa.
私は猫を飼っています。

これらは口語なので、こうしてブログの文章に書いていること自体が矛盾していますが、例えばスマートフォンのチャットなどで会話するときなどには書かれることもあるそうです。またもっとも標準的なフィンランド語を話すと言われているユヴァスキュラ圏の人々は、比較的こうした省略なり変化なりを行わず、「教科書通り」のフィンランド語で話しているのだとか。

ともあれ二冊の教科書を学び追えて基本的な文法事項は出そろった今後は、いろいろな音声や映像を視聴して、それらを聴き取り、口語表現にも慣れて行く必要がありそうです。引き続き精進いたします。

f:id:QianChong:20190806182646j:plain