インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ネット配信で映画芸術は変質していくのかもしれない

新聞の朝刊に載っていたこの記事、ハリウッド映画の、ネット配信での売り上げが映画館での売り上げを上回るようになったため、両者が同時に封切られるようになったというお話でした。

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なるほど、コロナ禍の影響がここまで……という感じです。が、私もコロナ禍以前からすでに映画館にあまり行かなくなっていました。封切り後にすぐに観たい! という欲があまりなくなってしまったのです。昔は毎週のように映画館に通い詰めていたというのに。

仕事や家事が忙しくて映画館に行く余裕がないということもあります。でも映画館から足が遠のいた一番の理由は「面倒くさいから」かつ「ネットの方が楽で安いから」。話題の作品も、しばらくすればネットで配信されますし、その値段は400円とか500円程度です。もちろん映画館ならではの大画面とか大音響とか臨場感などは比べるべくもありませんが、わざわざ上映時間に合わせて出かけて、高いチケットを買って(あるいは事前にネットで予約して発券して)……というのがとにかく面倒で。

さらに映画館で映画を観るときには「リスク」が伴います。座る位置によっては画角が歪みますし、前に背の高い方が座っているとこれまたストレスになる。お隣にたばこ臭いオジサンとか、加齢臭が強いオジサン(失礼)が座ると、もうそれだけで映画に集中できません。最近の映画はどこも指定席で入れ替え制だから、このあたりの融通が利きません。さらにコロナ禍が追い打ちをかけ……。でもネットで映画を観れば、そういうリスク一切から解放されます。

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https://www.irasutoya.com/2020/09/blog-post_15.html

というわけで、冒頭の記事に書かれていたような消費者の趨勢はよく分かるのですが、ただこれ、映画芸術という観点からはかなり大きな負のインパクトを持っていると思います。これだけ映画館にケチをつけておきながらこんなことを言うのも申し訳ないのですが、やはり映画は、大画面で観てこそ本来の鑑賞だという側面が(少なくとも今の段階では)あるからです。

中国の映画監督・賈樟柯ジャ・ジャンクー)氏が、かつてインタビューでこんなことを言っていました(7:10あたりから)。

私の作品はすべて「映画の思考法」に基づいて撮っています。そして「映画の思考法」が表現される場所は映画館の大きなスクリーンなんです。例えば場面の処理や俳優の演技など、すべてスクリーンを念頭に置いています。ですからiPadスマホやパソコンで観ると、映画本来の味わいがかなり失われてしまいます。

特に損なわれてしまうのは俳優の演技ですね。俳優は大きなスクリーンで観たときにピタリとはまるよう正確に演じています。ですから小さな画面で観て「演技が物足りない」とか「感情表現が乏しい」などと思うのは誤解なんです。大きなスクリーンを前提に演じているわけですから。


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私はホームシアターみたいな豪華な設備は持っておらず、いつもパソコンで映画を観ています。確かにパソコンで観るのはお手軽だけれど、画面に室内の明かりが映り込んだりして、映画の芸術性を損なっていることは否めません。この先こうした鑑賞方法がスタンダードになっていくとしたら、つまり小さな画面を念頭に置いた映画ばかり作られるようになるとしたら……映画という表現形式そのものに大きな影響を与えるようになるかもしれません。