不要不急ならぬ「必要火急」の用事で都心に出た帰り、いつものスーパーに夕飯の材料を物色しようと立ち寄ったら、レジに長蛇の列ができていました。「あ、もしやこれは……」と思って売り場に回ってみると、案の定あちこちの棚が空っぽの状態に。ざっと見たところ、缶詰や即席麺や冷凍食品などはもちろん、野菜も肉類もかなりなくなっています。昨年の大型台風が接近した時もちょうどこんな感じでしたけど、みなさん都知事の発表やニュースやワイドショーなどで居ても立ってもおられず、買い求めに殺到しているのでしょうか。
でもよく見ると、葉物野菜や魚介類などは普通に残っていました。これは要するに、比較的長く保存できたり、冷凍できたりするものを中心に買い占めているということなのかな。私はいつも通りに買い物をしましたけど、うちは夫婦二人だけで比較的気楽な食生活だからそんな余裕をかましていられるのかもしれません。小さいお子さんがいるとか、お年寄りがいるとかのご家庭だと、気の使いようも私たちなどの比ではないでしょう。
ネットのニュースやSNSでは、こうした「すっからかん」のスーパーの棚を写真や映像に収めては拡散させています。数週間前のトイレットペーパー騒ぎの際、「みんながそうしているから」という理由で大勢がデマと知りながらも同じ選択をして、それが拡大する「バンドワゴン効果」が指摘されたばかりだというのに、本当にみなさん懲りない方々です。SNSはもうそういうものだから仕方がないですけど、マスメディアには大きな責任があると思います。
https://www.irasutoya.com/2016/06/blog-post_40.html
こうした買い占めに関して、ネットで興味深い記事を見つけました。この記事では、日頃から今回のような非常事態を想定して備えをしている人々を「Preppers(プレッパーズ)」と呼んでいます。
「アマゾン流の必要なときに、必要なものを、必要なだけ生産または調達するジャストインタイム方式はとても効率的ですが、レジリエンス(回復力)が欠落しています」という指摘は、本当にその通りだなと思いました。これは何も今回に限らず、地震や台風などの災害に備えて、食品や生活必需品を常備しているかどうかという問いかけでもありますよね。私もあまり家にものを置きたくないタイプの人間なので、水や簡易トイレなどの備蓄はありますが、食品についてはあまりきちんと揃えてきておらず、反省することしきりです。
また、買い占めや「駆け込み買い」を誘発するバンドワゴン効果への対処として、とある掲示板サイトがコロナウイルスに関する投稿の削除を開始したというのにも注目しました。「この種の投稿はこのサブフォーラムにも社会全体にもまったく意味が無いので、できるだけ早急に投稿を削除するようにしています」とし、削除する理由は「プレッピングは日ごろから非常事態に備えることです。今になって急に、自分で使うためにN95マスクが3箱必要になったからといって品不足を引き起こすことではありません」と。いや、耳が痛いです。
……と、こんなブログを書いている私も、煽りに加担している可能性がありますね。このあたりで止めておきますが、ひとつだけ、これだけ物流などのシステムが発達した現代の大都市である東京で、人間の生存に関する極めて根源的な不安である飢餓への恐怖が湧き上がるなんて思いもよりませんでした。そんな「飢餓」なんて大げさなものじゃない? でも食糧が尽きるかもしれないという心配は、突き詰めれば飢餓への恐怖ですよね。
あの大震災のときにも似たような恐怖が湧き上がって一時期スーパーの食品棚から商品が消えましたが、今回はあの時以上の恐怖が買い占めに走る人々を突き動かしているような気がします。大震災はたしかにインパクトとしては大きいけれど、それでもいずれ回復、復興していくだろうという「先」が見えました。今回の感染症はその「先」がどこになるのか今のところ全く見えていないという点が大きいのだと思います。