インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

お子ちゃま扱い?

同僚の英語講師から聞いたお話。先日市役所へ書類の手続きに行った際、窓口で大声を上げて抗議している外国人がいたそうです。ほとんど警察を呼ぶ必要がありそうなほどの「怒り狂いぶり」だったそうですが、そのきっかけは市役所の職員がその外国人に対して、人差し指を口に当てて「しーっ」とやったからなんだとか。

おそらく声が大きすぎて他の利用者にも迷惑だから、少し声量を下げてくださいというような意味合いで「しーっ」とやったのでしょうけど、同僚から「アメリカだとこれはかなりの『子供扱い』になるので、その外国人が怒り狂った気持ちも分かるんだけど、日本人は大人同士でも『しーっ』をやるの?」と聞かれて、はて、どうかな、と考え込んでしまいました。

やるかな? 少なくとも私は、大人に対してやったことはないと思います。学校の留学生諸君が授業中にいつまでも騒いでいるときなど、注意喚起の意味合いでやったことはあるかな? その留学生同士でも「ほら、先生がいま大事なことを説明してるよ」という感じでお互いに「しーっ」のジェスチャーをやっているのは見たことがあります。というわけで、大人同士で「しーっ」とやられたら子供扱いされたと感じる、というのはまあ分かるような気がします。

この話を思い出したのは、けさ新宿駅の地下街でこんなデジタルサイネージ(電子公告板)を見たからです。東京都の観光公式サイト「GO TOKYO」による「How to “Hello Tokyo”」という広告で、ハローキティが東京観光を楽しむコツをご紹介しますというものなんですけど、旅行の tips を紹介するというよりは、観光客に対してマナーの遵守を訴えるという内容です。

英語と日本語、それに中国語(簡体字繁体字)とハングルで、さまざまな「コツ」が紹介されています。詳細はこちらのサイトに載っています。Language から多言語のページに飛ぶこともできます。

www.gotokyo.org

ハローキティが語りかけるという設定なので、口調が「〜ね」なのはまあ脇に置くとしても、これはちょっと外国人を始めとする観光客を「子供扱い」しすぎなんじゃないかな、市役所で激怒していたあの方みたいに不快に感じる人もいるんじゃないかな、とちょっと心配になりました。そのものズバリの “Shhh...” もありますし。

こういうのは日本だけなのかしらと思って、例によってネットをいろいろと検索してみたら、例えばこんなページが見つかりました。こちらはロンドンの “Do’s And Don’ts”、つまり「べし・べからず集」という感じですね。

London Do’s And Don’ts: 10 Unwritten Rules That Every Londoner Knows

他にも似たようなサイトはいくつもありましたが、いずれもマナー的なものでは「エスカレーターでは右側に立ちましょう」とか「列に割り込まないで」くらいで、あとは観光を楽しんでね的な軽いジョークっぽい内容です。ハローキティによる注意喚起とはずいぶん違う雰囲気だと思いました。ただし、同じサイトのパリ版には “Do keep your voice down(声量を抑えてください)” という一項がありました。

もとより日本の公共空間にはこういうマナーや注意を呼び掛けるたぐいの広告やスローガンやアナウンスがあふれていて、私は日頃からちょっと利用客を「子供扱い」しすぎなんじゃないかと思っています。もちろん日本人の民度がそこまで高くないから注意喚起をする必要があるんだという向きもありましょうし、ハローキティを起用したこの広告も、昨今のオーバーツーリズムに危機感を持ってのことかもしれません。

qianchong.hatenablog.com

ただ、こんなことを言うと身も蓋もないのですが、おそらくこういう広告やスローガンやアナウンスは、実際のところ誰も気にも止めない・止めていないんじゃないか、つまりあまり効果はないのではないかと私は思っています。