インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

イギリスのパブ

歳を取って以前ほどお酒を飲めなくなりました。一生ぶん飲み尽くしたからもういいやとお酒を飲まないでいた時期もありましたが、旅行先ではやっぱり地元の酒場に行ってみたくなります。イギリスといえばパブが有名ですが、最初はなんだか入りにくそうな雰囲気に気圧されていました。

でもまああちらだって商売なんですから、お金を払うという人を歓迎しない手はありません。それで勇気を出していろいろなパブに入ってみましたが、どこもすんなり入りこめた上にとても快適に過ごせました。海外を旅していていつも思うのですが、自分が「こう思われるかもしれない・こう見えているかもしれない」という感覚はまずほとんどすべてが幻想のようなものかもしれません。悪意を持って近づいてくるような手合いには注意する必要があるものの、ふつうのみなさんはそれぞれの目的に忙しくて、他人のことなど我関せずなのです。

さまざまな文化背景を持つ人々が入り混じっているロンドンのような街の場合はとくに、自意識過剰になっている自分をよそに、誰も私のことなど気にしないし、客であればサービスを売って対価をもらっておしまい。それだけなんですね。いえ、田舎町の地元の人しかいないようなパブでも、私が入っていこうがなにを飲んで食べようが、お店の人も周りの人もまったく関知していないのです。考えてみれば当たり前です。そりゃもちろん、ドレスコードがあるようなお高いお店に行くんならそれなりに意識もいるでしょうけど、パブではそういう気づかいはまったくいらないことがわかりました。

パブで私はビールばかり飲んでいました。基本的にはカウンターでビールの名前と量(1パイントか、ハーフパイント)を言って、カードで払うだけ。レシートはいるかと聞かれることがあるくらいで、英語を話すという気負いすらいりませんでした。いちおう勉強でもあるので “I’d like to have 〜” だの “Can I have 〜” だのを使ってみましたが、周囲のイギリス人からしてビールの名前と量だけ言ってるパターンが多かったように思います。

パブでは食事もできて、たいがい前菜からメインからデザートまでメニューも揃っているのですが、食事している人はどこでも少なくて、みなさんずっとお酒だけを傾けながらおしゃべりに興じている感じでした。ビールもぐっと飲み干すというより、ちびちび飲みながらえんえんおしゃべりしてる。

金融街の近くのパブに行ったときは、仕事が終わったあとの会社員らしき人たちがパブの前の路上にたむろして立ったままビール片手に談笑していて、こういうのはいいなと思いました。やっぱりパブでは飲むだけで、そのあと改めてレストランへ食事に行くとか、家に帰って食べるとかするのかしら。

私は食事もしてみたかったので、パブでも何度か食べました。タパスを盛り合わせたようなプレートがあるパブもあって、これはおつまみと食事を兼ねたような感じでとてもよかったです。あとクラシカルなパブで名物らしいミートパイも食べましたが、こちらもすごくおいしかった。

パブで食事をするときはテーブルに陣取ってスタッフに注文するみたいなのですが、たいがい誰も回ってこないので、カウンターに行ってビールを注文するときに「あっちのあのテーブル」などと指さして料理を注文していました。大勢の客でごった返すパブでも、ちゃんとテーブルまで届けてくれます。

料理を頼むと必ずと言っていいほど「なにかアレルギーはある?」と聞かれました。それから料理がきて食べていると、これも必ずと言っていいほどスタッフが近寄ってきて「注文したものは揃ってる? 料理はどう?」みたいなことを聞かれます。このへんがイギリスのパブ流のホスピタリティなのかしら。

次回スコットランドに行くチャンスがあったら、こんどは伝統料理のハギスを食べてみたいです。そのときはビールじゃなくてスコッチウイスキーを飲んでみようかな。