インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ハエを見かけなくなった

むかし「ハエ取りリボン」ってのがありました。若い方にそう言ったら「なにそれ?」と言われましたが、たしかにもう長い間お目にかかっていないような気がします。というか、都会ではハエ自体がほとんどいなくなりました。私は虫がやや苦手なので、正直あまり思い出したくもないのですが、昔はハエっていっぱい飛んでましたよね。日々の暮らしはハエとともにあったと言っても過言ではありませんでした。

「ハエ叩き」という、よく考えてみるとかなりシンプルにおぞましい道具は、たぶんどこのご家庭にも一本はあったはず。中国に留学していたときはテニスラケット状の道具で、ネットの部分が通電している金属線になっている必殺兵器を使っていました。本来は蚊を仕留めるための道具だと思いますけど、ハエにも使えました。「成功率」は高くなかったですけど……。

子供の頃、魚屋さんの店先ではリボンがくるくる回っていました。魚にたかろうとするハエを追い払う機械ですが、あれは何という名称だったのだろう……ということで、ネットで調べてみたら、そのまんまの「ハエよけ機」でした。台湾の夜市の屋台でも見かけたことがあるような気がします。たぶん今でも使ってらっしゃるところはあるでしょう。

「蝿帳(はいちょう)」というのもありました。ネットで検索すると、もともとは食べ物を一時的に置いておくための網戸つきの戸棚のことだそうですが、より一般に普及していたのは傘のように開いて使うやつです。子供の頃、あれを蝿帳とは呼んでいなかったなあ。食卓カバー? なんと言っていたのか思い出せませんが、とにかく特に名前もつなかいくらいごく普通の身近にある道具なのでした。

大学を卒業したあと就職せずに(できずに)路頭に迷い、九州の田舎で農業や低生産低消費の暮らし方を実践するフリースクールに住み込んでいたことがあります。当時は毎晩蚊帳(かや)を吊って寝ていましたが、これは蚊をよけるためというよりハエをよけるためなのでした。近くに牛舎があったからじゃないかと思いますが、けっこうな数のハエがいました。それでも暮らしてしまえば慣れてしまえた、というのが自分も若かったのだなと思います。今だったらたぶん音を上げていると思います。

当時、個人的に発行していたニュースレターにハエのことを書いた覚えがあって、書棚のファイルを探してみたら奇跡的に一枚だけ残っていました。よくまあちまちまと手書きで作っていたものだと思います(まだパソコンもDTPもほとんど普及していない時代です)。これも今だったら体力的にも視力的にも不可能だと思います。若さってスゴイ。

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現代でも蚊はけっこういますし、網戸なんてものも健在ですけど、ハエは、少なくとも都会ではかなり減りました。下水道や側溝などの整備、水洗トイレの普及など様々な要因があるんでしょう。ある動物種が急激に個体数を減らすことは生態系にとっては必ずしも良いことではないのかもしれません。でも私はかなり清潔かつ快適になった今の時代を言祝ぐものです。タバコの煙の減少(今でも煙害はなくなっていないけれど)もそうですけど、いい時代になった、生きてて良かったなあと思います。

ところで、ハエ取りリボンをネットで検索してみたら、Amazonなどの通販サイトでたくさん売られていました。昔のような大きなハエではなく、コバエ対策で買われている方が多いみたいですね。