ちょっと前にケイレブ・エヴァレット氏の『数の発明』を読んでいたら、こんな記述が出てきました。
世界では今も昔も、さまざまな計算盤や計算機が使われていて、これを使えば使用者にとっては明らかに便利だ。日本の計算機(何世紀も前に中国のスアン・パンの計算機が伝来したもの)、ソロバンが実際に使用されている様子を見ると、だれもが納得するだろう。(249ページ)
「中国のスアン・パンの計算機」というのが聞き慣れませんが、中国語を学んでいらっしゃる方なら「ああ」と思い当たるはずです。これは中国語の“算盤(suànpán)”ですよね。たぶん原文の英語に“Suanpan”とあったものをそのままカタカナで訳されたんだと思いますけど、これはすぐ下に書かれている「ソロバン(漢字なら算盤)」でもよかったんじゃないか、スアン・パンというなにか未知の道具という印象を読者に与えるよりは、と思いました。
https://www.irasutoya.com/2013/09/blog-post_2255.html
いま読んでいるケヴィン・デイヴィス氏の『ゲノム編集の世紀』にも、遺伝子編集技術「クリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)」などの研究に関連して「フェン・ジャン」氏の業績について割かれた一章があります。MIT教授の張鋒(Zhāng Fēng/ジャン・フェンもしくはジャン・フォン)氏のことですが、氏は中国出身ながら現在はアメリカ国籍なので姓名をひっくり返して「フェン・ジャン」と表記されるのはわかるものの、この章にはもうおひとり「レ・コン」氏も登場します。
たぶん英語の原文では“Le Kong”か“Le Cong”と表記されていたのだろうな、“孔”さんか“叢”さんなんだろうなと当たりをつけてネットで検索してみたところ、この方はスタンフォード大学の叢樂(丛乐:Cóng Lè)教授でした。カタカナで無理矢理に書けば「ツォン・ラー」、フェン・ジャン氏に倣ってファーストネームを先にすれば「ラー・ツォン」とでもなるでしょうか。
いずれも些細なことで、ことさらに目くじらを立てるほどのものではありません。それにこの二冊とも翻訳は素晴らしく読みやすくて、とても楽しんで読めました。でもそれだけに、英語の翻訳者さんが、ほんの少しだけ中国語の単語や人名の発音に想像を働かせて、例えば中国語の翻訳者に確認するなどしてくださっていたらと、ちょっと残念な思いでした。中国語の翻訳者が周囲にいなくても、私がいまちょっとネットで検索したくらいで判明することでもありますし*1。
残念といえば、中国語関係者の中でつとに有名なのが中国の俳優「チャン・ツィイー」氏です。中国語では“章子怡(Zhāng Zǐyí)”。このピンイン*2をまたまた無理矢理にカタカナでかけば「ジャン・ズーイー」とでもなるでしょうけど、最初に日本に紹介された際、おそらく英語の翻訳者さんによってピンインを英語風(?)に読まれたためか「ツィイー」などというちょっと発音しにくい名前で人口に膾炙してしまいました。これも中国語関係者に問い合わせてくださっていたら……と思うのでした。