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しまじまの旅 たびたびの旅 119 ……沖縄美ら海水族館

車を運転しながらカーラジオを聞いていたら、今回の台風6号を「ブーメラン台風」と呼んでいました。確かに、沖縄本島から見ると、片側すぐそばを通り過ぎたと思ったら再び反対側に引き返してくるんですから、ブーメランそのものです。天気に意図などあろうはずもありませんが、ひじょうに執拗なタチの悪さを感じます。


https://weathernews.jp/onebox/typhoon/06/

おかげで、私が沖縄に滞在している期間はほぼすべて雨天ないしは荒天になることが確定しそうです。もともと南の島で「なーんもしない」ことを目的にした旅ではあったのですが、そこはそれ貧乏人の性といいますか、何かワサワサと動いていないと逆に落ち着かないのです。というわけで、比較的風雨が落ち着いた今日は、少しでも観光らしいことをしようと車で名護市まで出かけてきました。

高速道路の沖縄道は暴風のため通行止めになっているようで、一般道を使って名護まで行ったのですが、雨天で運転を慎重にしなければならず、結局私が滞在している沖縄市からは一時間半以上かかりました。というか、沖縄本島って自分が想像していたのよりもはるかに巨大なんだなあと思いました。「島」というイメージに引きずられすぎですね。

向かったのは観光客らしく「沖縄美ら海水族館」です。こんな荒天で営業しているかしらと思いましたが、ウェブサイトによると朝の8:30から開館しているとのこと。それで開館時間を狙って朝の7時には出発しました。夏のこの時期、観光客でごった返すはずのこの水族館ですが、予想通り今朝はまだほとんど誰もいませんでした。

最初から展示を見るのではなく、一番最初に一番奥にあるあの有名な大水槽まで行ってみました。10分間ほど誰もいない巨大な空間で、水槽を眺めていました。20年くらい前にフィレンツェウフィツィ美術館に行ったとき、やはり開館と同時に入ってボッティチェリの「春」と「ヴィーナスの誕生」をたったひとりで眺めたときのことを思い出しました。荒天のおかげで、贅沢な体験になりました。

でも、ゆうゆうと泳ぐジンベエザメやマンタや多くの魚たちを見ている間に、ちょっと得も言われぬ悲哀を感じてしまって、だんだんそこにいるのがいたたまれなくなってしまいました。こんなことを言うと、生物の保護や繁殖など研究の側面もおおいに兼ね備えている水族館や動物園の存在意義を全否定するようなものですけど、この生き物たちはこれまでも、これからもこの狭い空間の中で囚われたままなんですよね。

あのジンベエザメは世界最長飼育記録を更新中で、今年で満27年を迎えたのだそうです。27年もこの狭い空間(世界で2番目に大きな水槽とはいえ、海に比べれば極小空間です)で生き続けているなんて……と感情移入してしまったのです。いやこれ、ひじょうに非論理的かつ非科学的な態度ではあるのです。自分だって他の生物の命を犠牲にして生きているのですし、もとより人類はそうやって他の生物を利用し研究することでここまで歴史を紡いできたのですから。

それでもどこか悲しい気分が抜けないまま水族館を後にしました。めったにないほどの人の少なさの中で(沖縄美ら海水族館は年間およそ400万人が訪れ、来館者数日本一なんだそうです)見学できたのは僥倖でしたが、その閑散とした空気感に荒天も相まって、もの悲しさの部分だけが増幅されてしまったようです。