インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

能楽鑑賞教室の予習

留学生が国立能楽堂能楽鑑賞教室に行くという企画を立てたので、その前に能楽の基本的な知識と演目の内容を予習するということで、不肖私が講座を担当いたしました。せっかくですので黒紋付に袴姿で登壇して、和服や家紋などについても簡単に紹介しました。

能楽鑑賞教室、今年の演目は狂言『伯母ヶ酒』と能『羽衣』です。どちらも比較的分かりやすいストーリーですし、国立能楽堂制作のパンフレットでもマンガつきで解説されているので、私などが出張る必要もないのですが、できるだけ楽しんでいただきたいので、私なりに工夫して解説をしました。

能『羽衣』はご案内の通り、日本各地、いや世界各地に伝わる「羽衣伝説」に材を取ったものです。説話の形としてはおおむね、羽衣をまとった天女が地上に降りてきて地上の男性と出会うというもの。空を飛ぶ道具としての羽衣、その羽衣をまとう天女は、様々な絵画・壁画・彫刻・物語で繰り返し描かれてきたモチーフです。アニメーション映画『天空の城ラピュタ』だって、羽衣が飛行石に置き換わっているだけで同じ類型のお話ですよね。

地上に降りた天女の運命については様々なバリエーションがあり、中には個人的にはちょっと嫌だなあと思う展開(男性と望まぬ結婚をし、子を成すといったような)もあるみたいですが、能『羽衣』は能らしく簡素でシンプルで祝祭感に満ちています。「羽衣を見つけた漁師に天女が返してと言うも断られて泣くと不憫に思った漁師が羽衣を返して天女は舞を披露して天に帰る」。これだけです。

「これだけ」と言っちゃうともちろん語弊があって、『羽衣』の詞章にはもっといろいろと美しい表現がわんさか出てきますが、煎じ詰めればこれだけのお話なのです。通常の演劇や映画が長い物語をぎゅっと圧縮して1時間や2時間にまとめるところを、能は逆にシンプルなストーリーを1時間や2時間に引き伸ばして語るんですね。

さて、留学生のみなさんは実際に能楽を鑑賞して、どんな感想を抱くでしょうか。