インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

文楽研修生ゼロもむべなるかなと思う

きのう山手線の電車に乗っていて、ドア上にあるモニターを眺めていたら、人形浄瑠璃文楽の研修生が今年度は1人も集まらなかったというニュースが流れていました。「今年度の研修が開講できない異例の事態」で、なおも「締め切りを設けず募集を続ける」のだそう。

www3.nhk.or.jp

以前に能楽の研修生への応募がゼロというニュースに接してブログに記事を書いたことがありましたが、伝統芸能の継承は少子化も相まってどこも極めて厳しい状況に置かれているようです。

qianchong.hatenablog.com

しかし、世界でもトップクラスの少子高齢化が進行中なのに、「異次元」とは名ばかりの、本気度があまり感じられない対策にとどまっている本邦。人口統計学者のエマニュエル・トッド氏をして「どうみても、日本は国力の増強や維持を諦めたのである」「あの国は今日おそらく、世界を征服することよりも、世界から身を引くことを願望している」と言わしむるほどです。

いえ、でも、為政者の無策にのみ責任を転嫁していてはいけません。ちょうど今朝の東京新聞で、ジャーナリストの北丸雄二氏が「むしろこの最大の社会変化に対し『最低の社会変化』すらしない男性たちの生態こそが少子化の主因でしょう」と書かれていました。同感です。

ただ私は、北丸氏がおっしゃるところの自民党内の「少数の、声のデカい無自覚な男性主義者たち」のみならず、市井にあまた存在する同じように無自覚で男尊女卑で伝統的家族間からちっとも抜け出せない人々の存在もまたこうした流れに竿をさし続けていると思います。

そう思いながらあらためて文楽研修生の募集要項を見てみると、応募資格にはこうあります。「中学校卒業(卒業見込みを含む)以上の男子で、原則として年齢23歳以下の者」。これじゃあ研修生が集まらないのも無理はないと思ってしまいました。

www.ntj.jac.go.jp

私は文楽はもちろん、能や狂言などの伝統芸能の継承と存続を心から願っているものです(歌舞伎はとりあえずのところ安泰のようですが)。しかし事ここに至ってもなお女人禁制やきわめて若い年齢層にしか門戸を開かないという縛りを維持し続けているというのでは、広範な大衆の支持は得られないと思います。そして伝統芸能は広範な大衆、すなわちその伝統を支える観客の存在なくして存続は不可能なのです。


https://www.irasutoya.com/2016/10/blog-post_31.html