インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

同性婚の法制化が少子化に歯止めをかける

「二〇一〇年以来、日本の人口は減少の一途を辿っている。どうみても、日本は国力の増強や維持を諦めたのである」。エマニュエル・トッド氏の『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』で、氏の分類によればともに「直系型家族社会」であるドイツと日本の分析に割かれた一章に、こう書かれていました。岸田内閣は今般、「異次元の」と銘打った少子化対策を打ち出しましたが、それを仔細に観察するに、あるいは国の予算の使われ方を観察するに、私もトッド氏と同じ感慨を抱かざるを得ません。

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そもそも少子化、あるいは少子高齢化は近年になって始まった話ではなく、私が大学生くらいの頃から、つまりもう何十年も前から騒がれていました。当時はまだ、将来の年金の原資が減っていくという程度の騒がれ方(それでも大変なことではありますが)でしたが、それから限界集落という言葉が登場したり、様々な国に様々な指標で追い抜かれたり、停滞だの失われただのと称される数十年を経て、いよいよ社会のインフラ維持まで不安視されるようになりました。

なのに、あいかわらず出産や子育て、あるいは子供の教育についても冷淡としか思えないような国政が続いています。たしかにこれでは外から見て「諦めた」と思われても仕方ありますまい。トッド氏は同じ章でこうも語っています。「あの国は今日おそらく、世界を征服することよりも、世界から身を引くことを願望しているからだ」。

私のように東京に住んでいる者にとっては、相変わらずこんなにも活気があって、さまざまなカルチャーが花咲き、コロナ禍を脱出してまたにぎやかになってきた街を眺めていると、どこが衰退なんだ、どこが人口減少なんだと、そうした警鐘にまったくリアリティを感じられないかもしれません。

でも地方都市に、あるいは地方都市のそのまた周辺地域へ行ってみれば、この国がしぼみゆくフェーズに入っていることは、シャッター商店街などの例を持ち出すまでもなく明らかなことだと思われます。私は今回の帰省でもまたそれを強く感じました。おそらくこれが今後数十年単位を経て、東京に住んでいる人々にまで明らかに感じられるようになっていくのでしょう。そしてそのときに心の底から後悔しても、もう取り返しがつかないことを悟るのでしょう。

私はもうあと数十年しか生きられない年齢ですから、こんなふうにある意味無責任に将来を「憂いてみせる」ことができます。でももっともっとお若い人たちにとっては冗談じゃない、いますぐもっと具体的で強力な施策を採れよと叫びたくなると思います。でもそのお若い人たちの政治への関心も低いまま。現在進行中の統一地方選挙も、低投票率の記録更新が予想されているくらいです。結局私たちはみんなでこのしぼみゆく・しずみゆく国と運命をともにしようと「諦めた」のかもしれません。

トッド氏のこの本を読んでいると、日本が「直系型家族社会」である限り、この問題の克服はほとんど不可能なように思えてきます。その意味では家族や婚姻などに関する伝統的な価値観をとことん疑って変革していこうという意志がこの国の多数の人々に宿らない限りムリということになり、私などはほとんど絶望感を覚えてしまいます。

ただしこの章にはもうひとつ、興味深い研究結果が示されていました。それは「同性婚を認める社会のほうが自己再生産の効率が良い」という事実です。なぜそうなるかについての詳細な論証は膨大かつ多岐にわたるので、ここに要約するのは私の手に負いかねますが(ぜひ本書をお読みください)、とりあえずその部分を引用すると……。

二〇一七年一月一日の時点ですでに同性間の婚姻を制度化していた社会に値1を割り当て、未だそうしていなかった社会に値0を割り当てると、合計特殊出生率との間に、すこぶる有意な正の相関係数、プラス〇・五〇が得られる。より単純にいえば、同性婚を受け容れた国の女性一人当たりの子供の数の平均は一・七四人である一方、同性婚を受け容れていない国々のそれは一・四六人でしかないのだ。いいかえれば、同性婚を認める社会のほうが自己再生産の効率が良いわけである。(下巻173ページ)

これは非常に興味深い事実です。同性婚の法制化に反対する人々は「生産性」などという言葉を使って、つまり子供を産まない人々がより増えて「国が変わってしまう」などと攻撃をしていますが、それがまったくの的はずれな主張であることを示しているからです。この事実は一見奇妙に見えますが、私には至極当然のことのようにも思われます。なぜならこちらの記事にもあるように「自分の性自認性的指向を肯定的に受け入れられていないと、次の世代を育もうという気にはなれない」だろうからです。

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同性婚の法制化はいますぐにでも可能で、なおかつ誰もがハッピーになれる(かつてニュージーランドの国会でモーリス・ウィリアムソン議員が述べたように「関係する人にはすばらしく、関係ない人は今まで通りの生活が続くだけ」)きわめて「コスパの良い」施策です。今回の統一地方選挙、この点に絞って各候補者の政見や公約を吟味し、投票行動を決めても良いかもしれません。少子化の影響をより長期にわたって受けることになるお若い方々は特に。


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