インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

コロナ禍におけるお稽古

日本経済新聞のネット記事に、コロナ禍は伝統芸能にも少なからず影響を与えているという記事が載っていました。リンク先は会員限定なのですが、私は職場でとっている「紙」の方で読みました。

www.nikkei.com

落語など演芸の寄席でも興業の中止がかなり深刻な影響になりつつあるようですが、能楽は他の伝統芸能、例えば歌舞伎や文楽などとは違って、基本的に一日一回限りの上演という形式がほとんどなので、かなり苦しい状況に追い込まれているものと想像します。

また、能楽師の方々の収入では、我々のような素人がお稽古するときの謝礼も大きなものがあると聞いていますが、コロナ禍で稽古を休んだりやめたりする方も増えている模様。私の師匠のところでも、稽古場ではなくオンラインでの稽古を希望する方もいるそうです。私自身は、広い能舞台で、師匠と私二人だけなので「密」とはほど遠いかなと考え、いまも通っています。が、それでもマスクはしたままお稽古しています。本当は外すのが作法なんでしょうけど……。

さらに記事では「教え子も減っている。高齢者が謡などを習いに来る能楽では、オンラインでの稽古を嫌がってやめていく人が少なくないのだという」とも書かれていました。なるほど、確かにオンラインで謡や舞の稽古をしても、何かこう物足りない感じはしますね。謡はともかく、舞は「極狭物件」の私の家では物理的に不可能です。

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https://www.irasutoya.com/2018/10/blog-post_83.html

能楽は、江戸時代の幕藩体制が崩壊した際に、それぞれの藩のお抱えであった能楽師が一挙に路頭に迷うという一大危機の時代がありました。そこからの再興において大きな力を発揮したのは、趣味で謡や舞をお稽古していた広範な一般の人々の存在であったと言われています。能楽が、ひとり玄人(プロ)だけのものではなかったからこそ、広く社会に文化として根づいていたからこそ、生き延びることができたわけです。

今次のコロナ禍は、ひょっとするとその当時にも匹敵するような危機なのかもしれません。私はこれからも、細々ながらお稽古を続けていこうと思っていますが、全体的な大きな流れとしてはかなり厳しい状況にあることは間違いないようです。どうすればこの危機を乗り越えていけるのか……あまり具体的なことは思いつきません。

趣味で能楽に親しむとしても、それなりにお金がかかる(やりようによって、ですが)というのは一つネックになっているような気がしますが、だからといってお安くして裾野を広げるというのも、これだけ多種多様な娯楽がそろっている現代ではあまり建設的ではないかもしれません。それに能楽師のみなさんの収入が減っては元も子もないですし。

それにしても、記事にあった「高齢者が謡を習いに来る能楽」って……。やっぱり能楽はお年寄りの趣味というイメージなんですね。いや、年配の方が多いのは、というかほとんどの方が私より年配の方ばかりというのは確かなんですが。それに私自身だって紛う方なき「アラカン(around 還暦)」なんですから、高齢者そのものです。傍目には「なんか渋い趣味やってる、くたびれたオッサン」という感じで映っているのかなあ……。