インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

もはや手伝ってくれない

留学生の翻訳クラスでは現在、毎週二回ほど「字幕翻訳」の授業があり、私が担当しています。字幕翻訳用のソフト「Babel」を使って、各自が好きな映像に日本語の字幕をつけるという実習で、学生一人一人にノートパソコンを貸し出して行っています。

ノートパソコンは学校全体の共有なので、私が授業ごとに保管場所まで借りに行き、教室まで運んでいます。授業が終わったら、また保管場所まで返却に……その繰り返しです。何十台もあるのでけっこう大変ですが、まあこれも仕事なので特に苦でもありません。

ただ、先日ふと昔のことを思い出して「そういえば」と感慨にふけってしまったのですが、私が留学生クラスの授業を担当し始めた15年ほど前だったら、授業後に教師が何か片付けものーー例えば黒板を拭いて消すとか、機材を運ぶとか、窓を閉めるとかーーをしていると、きまって留学生が「センセ、手伝います」と駆け寄ってくれたものです。特に中国語圏の留学生に多かったような。

でもいまではそういう学生さんは皆無になりました。いえいえ、別に手伝ってほしいわけじゃないんです。学生さんも次の授業の準備など、忙しいんですから。ただ、以前はおそらく母国で、生徒が先生を自然に手伝うという習慣が養われていたであろうものが、もうそういう時代ではなくなったんだなと。「なぜ生徒に手伝わせるのだ」という親御さんからのクレームが入る、そんなご時世なのかもしれませんね。

中国語圏では昔から“尊老愛幼”とか“尊師重道”などという言葉が尊ばれてきて、もちろん今もそれは生きている(公共交通機関などで席を譲るなど、日本のお若い方々よりはるかに積極的だと思います)のですが、それでもだんだんそういう一種の美徳(かな?)は失われていくんだなという感慨にふけった次第。まあ、教師があまりエラそうにしてばかりいて「アカハラ」まがいな行為が見過ごされるよりはよほど風通しがよく、さっぱりしているとも思えますが。


https://www.irasutoya.com/2014/11/blog-post_30.html