インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「芬」をめぐって

フィンランドのマリン首相が初来日ということで、新聞各紙には大きく取り上げられて……おりませんで、これが。私が取っている新聞など、二面か三面の国際欄に小さく二段分だけ報道されていました。小さな国だとこれくらいの扱いになっちゃうのかしら。でもウクライナ戦争をめぐって、ロシアの西と東でそれぞれ国境を接する両国関係はけっこうクリティカルな問題を共有していると思うのですが。

それはさておき、新聞やネットニュースを見ていて「日フィンランド」という表記が興味深いと思いました。首相官邸や外務省などの表記は「日・フィンランド」とナカグロ(・)でつないでいます。
www.jiji.com
www.sankei.com
日米、日中、日韓、日露(日ロ)、日独、日仏、日台、日印、日豪あたりまでは漢字二文字で表記されるところ、日芬とはしないのがおもしろいと思ったのです。やはり見慣れていないからなのでしょうか。あ、芬はフィンランドのことです。中国語でも“芬蘭(Fēnlán)”です。

ネットで検索した限りでは、ブラジルやエジプトなども「日ブラジル」とか「日エジプト」のように表記されるみたいです。中国語のように“中巴”とか“中埃”みたいな表記はしないんですね。カナダやイタリアあたりだと外務省ウェブサイトの表記も揺れていて、「日加」と「日・カナダ」、あるいは「日伊」と「日・イタリア」が混在しています。この辺が慣れ・不慣れのボーダーラインなのかもしれません。スペインも「日西」と「日・スペイン」で微妙です。南アフリカは「日南ア」という表記を見つけました。

ただ、日芬がまったくないかというとそうでもなく、数は少ないですがネットでも見つかります。例えばこちら。リンク先の23ページに「日芬外交関係樹立100周年」という表記がありました。こちらでは日芬に「にちふん」という読みがついています。なるほど「にっぷん」とは読まないのですね。

日芬はあまり見慣れていないことに加えて、芬の字は2010年の改定常用漢字表にも入っていないので、おおかたの政府機関やメディアでは「日フィンランド」あるいは「日・フィンランド」にするのでしょう。ちなみにこの日芬、昔はもっと使われていたようです。「ソ芬両国」(ソ連とフィンランド)とか「日芬国際陸上競技大会」という表記を見つけました。いずれも昭和初期の表記です。

蛇足ですが、Wikipediaにあるこちらの「外国地名および国名の漢字表記一覧」、日本語の漢字による当て字・中国大陸の表記(ただし繁体字)・台湾の表記が一覧になっていて、眺めているだけでもおもしろいです。
ja.wikipedia.org