インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

申し合わせ

今日は仕事を一時間ほど早退して、千駄ヶ谷国立能楽堂にやってきました。来週の5月3日と4日にお能の発表会があるのですが、私は能二番と仕舞二番の地謡、それに自分の舞囃子に出ます。今日はその「申し合わせ」なのです。

申し合わせはまあ「リハーサル」のようなものですが、演劇のゲネプロみたいに衣装から音響から照明からすべて本番通りにはやりません。もとより私は紋服で舞う舞囃子なので衣装はありませんし、特別な照明もないので当たり前ですが、音響にあたるお囃子と地謡については本番同様に玄人の先生方がつきあってくださいます。

お囃子のうち、高い音を出す皮を火鉢で暖めるなど手間のかかる大鼓(おおつづみ)だけは拍子盤に張扇であしらってくださいますが、それ以外は本番とまったく同じです。我々も普段仕事帰りに稽古に伺うときはシャツにジーンズなどの私服(足袋だけは履きます)ですが、申し合わせでは着物と袴をつけます。

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国立能楽堂での発表会は、もともと一年前の今ごろ開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の非常事態宣言が出た影響で一年間延期になっていました。ですから申し合わせも二度目です。一度舞台に立ったので今回はあまり緊張しないかな……と思ったら、本番が近づくにつれて徐々に緊張が高まってきました。

一年間延期になったことで、結果的に今回舞う舞囃子「邯鄲」も一年間稽古することになりました。お師匠によれば、あまりひとつの内容だけ長々と稽古するのも考えもので、静かなもの、勇壮なもの、いろいろと取り組む中で分かってくることもあるとのことです。ただ私は、図らずも長く取り組むことになった今回の「邯鄲」で、初めてお稽古の楽しさの一端が分かったような気がしました。

いつもは多少形になったところで発表会にかけて、その後はまた違うものに取り組む……ということを繰り返していて、これまでにお稽古してきた仕舞や舞囃子のどれひとつとして、自分のなかにある程度の形として、つまり「レパートリーです」といえるような形として残ってはいません。もちろん素人ですからそれでもいいのですが、今回長くひとつの舞囃子を稽古し続けたことで、一通り型を覚えた先で「さて次はどの型だっけ」などと意識する必要がなくなったあたりから、がぜん舞がおもしろくなってきたのです。

さて、当日はどうなるでしょうか。とりあえずたくさん踏む「楽(がく)」の拍子を踏み間違えないかどうかと、あと一時間半くらい舞台に正座していなければならない能の地謡を終えたのち、すっと立って切戸口から楽屋へ戻れるかどうかが心配です。