インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

昨年末にTwitterを「降りて」三ヶ月ほど経ちました。すでにアカウントは消滅していますが、実はもうひとつTwitterにアカウントを持っていて、それは今でも続けています。趣味で学んでいるフィンランド語でのみつぶやくアカウントです。

ただし、以前Twitterを始めとするSNSで「注意経済(アテンション・エコノミー)」に絡め取られて無駄な買い物をしてしまったり、自分の時間をどんどん失ってしまったりしていたことへの反省として、一週間に一回しか書き込まず、その後はなるべく近づかないようにしています。フォローしている人はいますが、リプライがついたときだけ何かを書くだけ(フィンランド語作文の練習になりますから)。リツイートや「いいね」はまったくしていません。

ところが先日、週に一度のつぶやきを書いたあと、ついついブラウザの右側に現れる「トレンド」につられて、他の日本語ツイートを読みに行ってしまったことがありました。そして、そこに流れる雰囲気の異様さに驚くとともに、そうした雰囲気に驚いている自分の反応にも驚いてしまいました。

世の中の様々な事柄、特にその瞬間に「トレンド」になっている事柄について、無数の人たちが140字以内の短い文章で、それぞれ好き勝手にかつ断定的に自分の声を吐露しています。それらはリツイートやリプライなどで有機的につながっているように見え、ときに輿論(世論)のようなものを作り出しているようにも見えます。

でもそれらのツイートは玉石混淆の度合いがあまりにも高すぎ、ノイズがあまりにも多すぎるのです。にもかかわらず次々と現れるそうしたツイートを読めば読むほど、リンクを踏めば踏むほど、そうしたノイズの中に自らも引きずり込まれていく。以前ならその「引きずり込まれっぷり」がなにか世の中のトレンドについて行けているような高揚感をもたらしてくれていたのですが、たった三ヶ月降りていただけで、ひとつひとつのツイートをとても醒めた眼で見られるようになりました。Twitterを降りるかなり前から抱いていた違和感がよりクリアに感じられるようになっていたのです。

折しも、ジャロン・ラニアー氏の『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』を読んだところでした。VR(バーチャル・リアリティ)研究の第一人者として有名だというコンピュータ科学者の氏によるこの本では、Facebookに代表されるソーシャルメディアのビジネスモデルに“BUMMER(バマー)*1”という名前をつけ、クラウドに棲息するBUMMERのアルゴリズムが私たちにどのような影響をもたらしているのかを10の視点から解説しています。

f:id:QianChong:20220410103211j:plain:w200
今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

FacebookTwitterはもちろん、Googleの諸サービス、とりわけGmailさえ使わないほうがよいと勧める本書は一見、現在のネット状況をかなり悲観的にとらえた論旨のように読めます。人によってはほとんど陰謀論の域に達しているのではないかと思われる方もいるかもしれません。でも著者自身はコンピュータとインターネットの利点と未来をとても肯定的に捉えています。ただ現在のような使われ方はあまりにも害が大きすぎるのではないかと。インターネットにはより良い未来のありようがあるのではないかと。

私自身はSNSはほぼ降りてしまったものの、Googleを始めとするネットサービスは公私ともに日々使っています。職場からの命令上使わざるを得ないサービスもたくさんあり、「今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除」してしまうわけにもいきません。それでもBUMMERのビジネスモデルが私たちにもたらす影響を冷静に捉えて、可能な限り自分の自由な意志と時間を取り戻す、あるいは奪われないようにする「暮らしの知恵」のようなものを養うことはできます。

そのための指針として、この本に述べられている内容はとても参考になります。Twitterに感じていた違和感と、それを降りてしばらく経ってから再確認できた違和感、そのいずれにも明確な理由があったのだとあらためて理解することができました。もっともその明確な理由が、ソーシャルメディアの虜になっているときにはなかなか実感できないというのが、BUMMERの厄介かつ狡猾なところなのですが。

*1:Behaviors of Users Modified, and Made into an Empire for Rent(ユーザーの行動修正を売り物とし、使用料をとって一大企業帝国を築くシステム)