インタプリタかなくぎ流

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赤い闇 スターリンの冷たい大地で

先日、夕飯を作りながら「報道1930」というニュース番組を見ていたら、今次のロシアによるウクライナ侵攻に関連して『赤い闇』という映画が紹介されていました。ホロドモールと呼ばれる、1932年から33年にかけてウクライナを中心に発生した大飢饉を扱った作品です。

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ウクライナは当時ソビエト連邦の一部であり、最高権力者スターリンの指示のもと、食料を強制的に収奪された結果、数百万人ともいわれる餓死者を出した「人工的な大飢饉」。欧州のパン籠とも称されるほどの豊かな穀倉地帯であるウクライナ*1をそこまでに追い込んだのは、スターリンの指導による農業の集団化と富農撲滅運動、さらには穀物の輸出による外貨獲得を推し進めたソ連の政策でした。

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どこかで聞いたような話です。大躍進や人民公社などの政策を推し進めた結果、三年にもわたる大飢饉を招いた中国と同じ構図ではありませんか。スターリン毛沢東二重写しになって見えます。さっそくAmazonでこの映画を見ましたが、当時のソ連における秘密主義の重苦しさとウクライナの惨状が、いま現在の状況にこれまた二重写しになって見えました。

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今朝の新聞で、作家の保阪正康氏がスターリンプーチンを重ねて論じておられました。さらにはプーチンの「われわれの安全のためにおまえたちは存在する」と言わんばかりのウクライナへの姿勢が、満蒙を「日本の生命線」と呼んだかつての日本にも重なると。傀儡政権を作ろうとしているところまで、本当にそっくりです。

映画では、主人公であるイギリス人ジャーナリストのガレン・ジョーンズがウクライナに潜入する経緯とその後が描かれています。そこに当時ニューヨークタイムズのモスクワ支局長で、ソ連の五カ年計画に関する報道でピュリッツァー賞を受賞し、大飢饉を否定するウォルター・デュランティがからみ、さらには『動物農場』でスターリン体制を風刺したジョージ・オーウェルも登場します*2

飢饉の描写はかなり重苦しいですが、現在のウクライナ侵攻の根底に横たわる歴史背景を知る上でも、またかつての日本の侵略行為を違った角度からとらえ直すためにも、見る価値があると思います。昨年中公新書の 『インドネシア大虐殺 - 二つのクーデターと史上最大級の惨劇』を読んだときにも思いましたが、まだまだ知らない近現代史の闇(しかも現代の問題ともつながっている)があるなあと自分の不明を恥じました。

*1:ウクライナ国旗は上半分が青、下半分が黄色ですが、これは空と小麦畑を象徴しているという説があるのだそうです。これも初めて知りました。

*2:ガレス・ジョーンズ氏はその後、満州国に赴いての取材中に殺害されてしまいます。ロシアの秘密警察NKVDの謀略だったのではないかとBBCは報じています