インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ラーメンが重いのです

きのう妻は知人との会合で食べてくるから夕飯はいらないと言っていて、私も所要で帰宅が遅くなることが確定していたので、夜は何も作らず外食で簡単に済ませることにしました。そこで、ちょうど帰宅途中の乗換駅近くに、かつて大好きでよく行っていたラーメン屋さんがあるのを思い出して立ち寄りました。最後に行ったのはもう十数年ほど前じゃなかったかしら。

ここはでっかいワンタンが豪快にのっている「雲呑麺」が名物です。私の記憶では、豚バラのチャーシューも、色濃く煮つけられたメンマも、脇に添えられた小口ネギと海苔も、それぞれ絶妙。細麺とあっさり醤油豚骨ベースのスープの相性も素晴らしい……というわけで、やってきたお店の佇まいは十数年前とまったく変わっていませんでした。うれしいではありませんか。

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ところが、待望の雲呑麺は一口目から何かが違う感じでした。あれ、こんなんだったっけ。食べ進むうちに違和感はどんどん増します。ワンタンはもっさりしているし、メンマは存在感ないし、小口ネギや海苔もちっともその個性を発揮していないのです。それにチャーシューの脂が強すぎて、結局これだけは残してしまいました。

ああ、味が変わっちゃったんだな、以前のご主人は本当にこの方だったっけ、あの名店も人気におぼれてしまったのかしら、残念だな……などと評論家ぶりつつ、あとは消化試合をこなすようになんとか食べ終えてお店をあとにして、ふと悟りました。お店の味が変わったのではなく、私の嗜好が変わったのではないかと。十数年の間に私のほうが、もうこうしたラーメンをおいしく食べられなくなっちゃったのです。

そりゃそうです。かつては一晩にワインを二本開けても平気だったくらいの酒飲みだった私が、いまや「ソバーキュリアス」なんつってんだもの。ソバキュリ、つまり「飲めるんだけどあえて飲まないだけ」などとカッコつけてますけど、実際のところ、もう昔のようにおいしくお酒を飲めなくなったってだけなんです。

「リタイアしてからゆっくりと旅行でも……」なんて言ってても、実際その年になったら旅行に行く体力がなくなるから、若いうちに借金してでも旅行しておけみたいな警句がありますけど、飲食も同じかもしれません。

何いってんの、還暦過ぎた健啖家だっているじゃないのという声が聞こえてきそうですけど、アレは相当レアなケースだと私は思います。大多数の中高年は、若い頃のように飲み食いできなくなっているのだけれども、それが悔しいもんだからお若い人にその「真実」をあまり伝えてくれないんじゃないかしら。