ジョセフ・ヒース氏とアンドルー・ポター氏の共著『反逆の神話』には、こんな一節もありました。
アメリカ合衆国を旅してまわる人は、どこもかしこも異様なほど同様であることに強く印象づけられずにはいられない。どのショッピングセンターにも、ほかのどこでも見られるいつもの店がひしめいている。そしてどの主要な連絡道路にもよく見る看板がびっしりついていて、お決まりのガソリンスタンド、レストラン、ドーナツ屋へといざなう。「ブランドの風景」はありふれたものになったから、多くの人々が、アメリカの小売市場のフランチャイズ及びチェーンの占有率が三五パーセントしかないと知ると驚く。(395ページ)
大量生産される画一化された商品を大量消費させられる大衆ーーというイメージは、カウンターカルチャーの思想が掲げる「体制への反逆」の中で語られる文脈のうちでも最もおなじみのもののひとつです。私も学生時代からしばらくの間はそうした思想に強く共感を覚えていました。だからこそ手仕事の復権や低生産・低消費の社会のありようを模索しようとして農業(のマネごとのようなこと)を志向したのですが、それが結局、少なくとも自分においては非常に未熟な行動で、結局は大量消費社会の軒先を借りての贅沢な遊びでしかなかったのではないか……そんなことを先日書きました。
上掲のフランチャイズやチェーンの市場占有率については、私も日本のそれについて全く同じような思い込みをしていました。東京の駅ビルも、実家のある福岡の駅ビルも同じような店舗ばかりが入っていて、郊外へ行ってもこれまた同じような店が並んでいると(例えばユニクロのような)。でもちょっと気になってネットを少し検索しただけで、経産省のこんな資料を見つけました。
経済産業省「2020年小売業販売を振り返る」https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/kako/20210409minikeizai.html
この資料にある2020年の商業販売額によると、小売業のうち「その他」に含まれる小規模事業者の販売額は小売業全体の約146兆円のうち約99兆円を占めています。つまり日本においても、大規模小売業者の割合(フランチャイズやチェーンがほとんどだと考えてよいでしょう)はアメリカ同様に3割強しかないわけです(「その他」にはカーディーラーやガソリンスタンドも含まれるようですから、純粋な個人経営や個人商店ばかりではないと思いますが)。
もちろん大規模小売業者の進出が地域の小売業者にとっての脅威になっているという実態はあると思います。そして私個人はやはり「どこもかしこも異様なほど同様であること」はつまらないし嫌だな、とも思います。ただその現象を単に強欲な資本主義の為せる技と極めて雑駁に語って「反逆」しているだけでは、ちっとも世の中の本質が見えていないのではないかとも思うのです。
地域や文化の独自性を壊すという見方(いわゆる「マクドナルド化」というやつです)は、一見その通りのように思えるけれども、実態や実質とは様々なずれがある。あるいは世の中の実態や実質はもっと複雑だとも言えるでしょうか。ここでも私は単純な「神話」に寄りかかって「ためにする批判」をしてきたのではないかと思ったのでした。