インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「だらーん」をめぐって

朝日新聞デジタルに興味深い記事が載っていました。新型コロナウイルスのワクチン接種で、日本語にまだ不慣れな方のために「やさしい日本語」で情報を伝える試みが始まっているという話題です。

www.asahi.com

特にこのイラストにあるような、「擬音語、擬態語を避け、体の動きは実演するとわかりやすくなる」というのは、なるほどそうかと改めて思いました。「だらーんと腕を下げて」という言い方は、一見具体的かつ易しそうに思えます。むしろ子供向けに分かりやすく話しているような雰囲気さえある。でも実は逆で、こういう擬音語や擬態語が入ると、かえって理解しにくいんですね。

振り返ってみれば、確かに日本語を学んでいる留学生のみなさんも、日本語の擬音語や擬態語で苦労しているようです。先日も教材の中に“酥脆”とか“熱呼呼”といった食べ物の特徴を形容する言葉が入っていたのですが、みなさん日本語にする際に様々な表現が飛び出して、なるほどこういう微妙な部分が難しいのだなと思いました。

例えば香ばしく焼けたパイ生地みたいな食感を表す場合の“酥脆”、日本語母語話者だったらたぶんほとんどの方が「サクサク」と表現するでしょうけど、非母語話者では「カリカリ」「パリパリ」などいろいろな言葉が出てきます。もちろんそれらも“酥脆”の訳としてそう外れてはいないけれど、日本語母語話者にとって「サクサク」と「カリカリ」と「パリパリ」は微妙に硬さとか歯触りの感覚とかが違いますよね。

もちろんこれは逆もまたしかりで、私たちが中国語を学ぶとき、中国語の擬声語や擬態語を的確に選ぶのはけっこう難しいです。中国に留学しているときに購入したこの《新日汉拟声拟态词词典》は、日本語の実に幅広い擬音語や擬態語を拾ってそれに当たる中国語の単語と例文を載せており、とても勉強になります。

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ネットで検索してみたら「第二版」が出ていて、残部僅少ながらまだ買えるみたいですね。

https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=456653&bookType=ch

ちなみにこの辞典で「だらーん(だらん)」を引くと、こんな例文が載っています。

その子の着ていた服は大きすぎて、やせた肩からだらんと下がっていた。
那孩子穿的衣服太大了,从瘦削的肩头搭拉了下来。

“搭拉”は「ダーラー」といったような発音です。そうか、日本語の「だらん」は、実は中国語の“搭拉(耷拉)”から来ていたのだ!……っていうの、『チコちゃんに叱られる!』あたりでやってくれないかな。「諸説あり」ってことで。

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