インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

カメントツの漫画ならず道

書籍はすべて紙の本を買っています。電子書籍もずいぶん買って読んでみたのですが、どうしても読書の体験が薄いように感じてしまい、読後も印象に残らないことが多いのです。それに電子書籍では、紙の本のように読んでいる最中に束(つか)の厚さを見て「半分くらい読んだ」とか「あと1/3くらい残ってる」という確認ができないのも大きいかなと。電子書籍でも「何%」という表示は出ますが、束の厚さでそれを知るのがなにか読書体験に大きく寄与しているような気がするんですよね。

とはいえ、マンガはすべて電子書籍で購入しています。これも本当は紙の本で読みたいんですけど、マンガはとにかく場所を取るので、極狭な自宅のささやかな本棚がすぐいっぱいになってしまうため、やむなく。今回読んだ『カメントツの漫画ならず道』全2巻もそうでした。

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カメントツの漫画ならず道(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

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カメントツの漫画ならず道(2) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

でもこのマンガは、やっぱり紙の本で読んだほうがよかったと思いました。第1巻にマンガ書籍の編集から製版、製本にいたるまでのルポが出てくるのですが、やはりビジュアルが主体のマンガだけに、それを紙に印刷して本に仕上げるまでにはものすごく多くの人たち、それも職人的な技能を持った人たちの手がかかっているんですね。文字だけの本なら要するにデータだと割り切ることもギリギリ可能ですが、マンガのような表現形態こそ紙の本で流通させなければ、と思ってしまいました。う〜ん、どうしよう。

カメントツ氏の画風は編集者から「筆圧高くて暑苦しい」と評される独特のもので、確かに中世の木版画みたいな雰囲気があります。この線のほとんどを「ポスカ」(水性サインペン)で描いているというのも作中で明かされていて、びっくりしました。ルポマンガという作風は西原理恵子氏の『できるかな』シリーズなどに通じるものがあります(その西原氏もルポしています)が、着地点は(ご本人はそう言われるのを嫌がるかもしれないけど)とても真面目で誠実。

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▲第1巻45ページ

この一見アナーキーな毒がありそうで、その実しみじみしたものが残る作風はどこかで……と頭の片隅で思いながら読み終わって、しばらくしてから「ああっ!」と気づきました。以前Twitterでよく見かけていた『こぐまのケーキ屋さん』と同じ作者さんじゃないですか。

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