インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

もうキャッチアップし続けなくていい?

週刊はてなブログ」の「今週のはてなブログランキング〔2020年11月第1週〕」で第二位になっていたこちらの記事を読んで、いろいろなことを考えました。さすがに達人の文章は読み応えがありますねえ。

yashio.hatenablog.com

ひとことで要約してしまうのも乱暴ですけど、この記事は「人が中高年になって徐々に周囲との不適合を起こしていくのは、能力の衰えというよりも『効率的・合理的な選択がもたらす結果』ではないか」ということをおっしゃっています。まさに中高年にさしかかっている自分としては、とても身につまされる話だと思いました。

人は中高年に至って「人生の残り少なさ」を意識しはじめます。そんな一般化をするなと怒る向きもおありでしょうけど、少なくとも私はそれを強く感じます。平均的な寿命という点でも、私はあと20年から25年ほど生きられれば僥倖というものでしょうし、健康寿命ということを考えれば、現在のように曲がりなりにもやりたいと思うことがそれなりにできる時間はもっと少ないと思います。

20年といったら、あなた、本当に短い時間ですよ。だいたい、大学を卒業したのがもう30年ほども前で、あれから今までの時間だってそんなに長くはありませんでした。「あっという間」とも言えないけれど、退屈するほど長い時間でもなかった。毎日毎日バタバタしているうちにここまで来てしまったのです。とはいえ不思議にあまり後悔はないですけども。

この記事では、年をとるに従って、新しいものにとりあえずキャッチアップして試してみるということをだんだんしなくなっていき、気がついたら周囲との間に「崖」ができていたり「いきなりハシゴを外され」たりするということが書かれています。確かに私も、以前ならとにかく「新しい物好き」で、新しいものはとりあえず試してみるという姿勢だったように思います。ネットのサービスはとりあえず使ってみるというのが基本姿勢でしたし、学生さんにもそう勧めていました。新しいスポットができたらとりあえず行ってみたいと思いましたし、大好きなラーメン屋さんの「開拓」にも熱心でした。

でも今は、まさにこの記事に書かれているように「自分の興味や関心の方向が定まってきたから」か、「有限な時間の使い方・振り分け方をコントロールしたいという感覚がより強くなっている」からか、あまり新しいものに手を出さなくなりました。昨今話題の『鬼滅の刃』にもまったく食指が動いていないし、SpotifyNetflixみたいなサブスクも利用していないか、退会してしまったものばかり。しかもこの記事にあるとおり、自分はそれを「合理的に選択していない」という意識なんですよね。

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https://www.irasutoya.com/2016/06/blog-post_27.html

ただ一方で、自分でも不思議なことに、年をとるに従って、とても合理的な選択とは言えないような選択が増えてもいます。趣味でやっている「お能」や「フィンランド語」なんて、その最たるものでしょう(先生方、ご無礼ご容赦のほどを)。それらに一生懸命取り組んだって、老後の暮らしが楽になるわけでは(たぶん)ない。セカンドキャリアのために手に職をつけるなどという目的なら、もっと「実用的」な学びにいそしむべきかもしれません。

かつて本業だった通訳翻訳業は、家庭の状況や業界の変化にコロナ禍も加わって実質「廃業状態」ですし、現在は固定した仕事として複数の学校で勤めている教師業もあと数年、どんなに長くても十年以内には退くべき時期が来ます。貯蓄や資産が潤沢にあるわけでもないし、年金が充分に支給される世代でもない。もうちょっと慌てるべきなのかもしれません。しかし、だからといって若いときのように必死でキャッチアップし続けなければいけないとも思わなくなっているのです。

上掲の記事の筆者氏はたぶん私より一回りほどお若いとお察ししますが、氏もキャッチアップのタイミングを逃すと「かなりの不自由や損を甘受させられるんだ、という怖さを認識してやるほかないんだろうか」と書き、「個人としてできるのは結局、ヤバイと感じたら面倒でも(自分には必要ない、興味ない、別に今困ってないと思っていても)やってくしかないのかも」と書かれているものの、「キャッチアップし続けること」にどこか及び腰な姿勢でいらっしゃるような気がします。

人はそれを「老い」と呼ぶのかもしれませんが、ああもうキャッチアップし続けなくていいんだと思えるようになったことが、損得に関わらず自分の好きなことをやりたいと思えるようになったことが、なんだかラクでうれしいんですよね。そうした自分が、しかしどんどん周囲との不適合を起こして「威張り系」や「昔取った杵柄系」の頑迷な老人にならないためにはどうしたらいいか、そのバランス点はどこにあるのかを考えるのが今の課題だと思っています。

qianchong.hatenablog.com