インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

外語学習における「いじましさ」

PV数(ページビュー数)という言葉がありまして、ウェブサイトのあるページが、どれだけブラウザで開かれたか(読み込まれたか)を示す数です。私のこのブログはふだん300PV/日くらいで微々たるものなんですけど、昨日はそれが突然10倍くらいになっていました。こういうことはひと月かふた月にいっぺんくらい起こります。たいがいはTwitterFacebookなどのSNSで、影響力のあるどなたか(インフルエンサーですか)が記事を取り上げてくださったときです。

昨日は1年くらい前に書いた、語学における「威張り系」と「昔取った杵柄系」の話を読んでくださった方が多かったようです。それもリツイートのコメントなどを見ると、ほとんどの方が「いるいる、そういう中高年男性!」という点で意見がほぼ一致しているようでした。ほかならぬその中高年男性である私としては、とても考えさせられるところです。そうか、やっぱり語学界隈では、そういう周囲との不適合を引き起こしている中高年男性がことのほか多いのか……と。

qianchong.hatenablog.com

これはやはり、ほぼモノリンガル社会である日本ならではの現象なのでしょうか。例えばアメリカだって「マンスプレイニング(mansplaining)」という言葉があるくらいですから、彼の地にも偉そうに上から目線でマウンティングをしたがる男性は多いのでしょう。でも、語学界隈においてはそんなに多くないんじゃないかと想像します。だってマルチリンガルが当たり前の社会では、母語以外に外語が話せるからって「それが何なの?」って感じじゃないですか。それにまあ英語がほぼ「リンガ・フランカ」となっている現状からすれば、アメリカの語学界隈は日本のそれとはかなり違っているのではないかと。

幸か不幸か、日本はこれだけの巨大な人口(世界でも十指に入ります)がほぼ一つの言語で暮らすことのできる珍しい国。モノリンガル社会と称するゆえんです。また母語話者が一億人を超える言語も世界には十ほどしかなく、日本語はそのひとつです。日本語はマイナーな言語どころか、世界屈指の巨大言語なんですね。ただし同規模のドイツ語やフランス語と比べて日本語が特異なのは、その巨大言語がほぼこの日本列島だけにぎゅっと圧縮されて使用されているという点です。

その日本語モノリンガルの環境こそが、この国独特の社会と文化を創り出すことに貢献してきたわけですが、反面私たちは、外語に対するいじましいまでのコンプレックスを育み続けてきており、たまさか外語が使えるようになると「なにかそれだけ他人より偉いと思うような錯覚」を持ちやすいのかもしれません。

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https://www.irasutoya.com/2017/12/blog-post_307.html

余談ですが、私はいま趣味でフィンランド語の教室に通っています(最近はオンライン授業)。そこでも私は、自分が「威張り系」になっていないかどうかとても気になります。威張れるほどフィンランド語が使えませんから大丈夫だとは思いますが、例えば数名でグループワークをするときなど、ついついその場を仕切っちゃってるんじゃないかとか、変な気を遣うのです。私は語学はインプット・アウトプットともに大いにやるべきという考えですけど、総じて日本の学生さんは控えめというか、あまり自分から発言しようとする方が少ない。そんな中で私は「じゃあ」とばかりに積極的に発言したり、作文を提出したりしています。

これはもちろん、自分が教師の立場になっているとき、生徒さんからあまりに反応がないのに心折れそうな毎日を過ごしているので、学生の立場になったときは積極的に行こうと思っているから。ロールプレイも作文も、別に本当のことをアウトプットしなくてもいい、ちょっとした「芝居っ気」をもって積極的に……と思って、教師の立場では学生にそう言うし、学生の立場では自らそうしようとしているのです。が、これもまわりの生徒さんからすれば「威張り系の中高年男性」にカテゴライズされてしまうのかもしれないなと思うことがあります。

考えすぎだとは思いますが、こういうある種の機微が私にはよく分からなくて、ときに気疲れするんですよね。語学に興味はあるものの、語学教室のあの雰囲気は苦手という方が存外多いんですけど、それはこんなところにも原因があるのかもしれません。日本人(日本語母語話者)がこうした語学コンプレックスから解放されないかぎり、語学をただ楽しく学び続けるというのはけっこう難しいのかしら。それとも私などとは違ってお若い方々は、そういういじましさとは無縁なところで素直に楽しく学んでらっしゃるのかしら。