インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

『生きる技法』とお金の使い方

安冨歩氏の『生きる技法』を読みました。200ページ弱の薄い本ですが、とても感銘を受けました。この本はまず冒頭で「自立とは依存することだ」という命題を掲げています。そして、依存する相手が増えるほど人はより自立し、減るほど人はより従属するというのです。私たちはふだん人に依存しないことが自立だと考えていますから、これは驚くべき命題です。

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生きる技法

昨年でしたか、金融庁の審議会が公表した報告書に端を発した「老後資金2000万円問題」が話題になりました。老いて人に依存しないためにはそれだけの資金が必要になるから、いまから「高齢社会における資産形成」を考えておかなければならないと。政府がそう言い出すまでもなく、私たちは歳を取ったら次第に頼れるところが少なくなる、そのために貯金しなければ、家を買わなければ、保険に入っておかなければ、要介護状態になったら、身体がいうことをきかなくなったら……と常に他人に依存しないことを最善とするマインドの中で生きています。今度の新しい首相も初手から「自助」を打ち出していましたよね。

けれど安冨氏はそれと真逆のマインドを提唱するのです。この本には「自立とは依存することだ」という大命題に沿って「友だちについて」「愛について」「自由について」など様々な命題が示されますが、例えばいま挙げたお金の問題に関しては「貨幣について」という章でこう言っています。

お金を貯めるよりも、依存できる人間関係を構築した方が確実であり、お金を使うなら、頼れる人を増やすために使うのが、賢明な方法だ、ということは間違いないでしょう。(中略)お金を使うなら、それは、人との結びつきを強めるために使うべきなのです。

そして大いに間違った命題として「自立するとは、他人に依存しないことであり、他人に依存しないためには、お金を手に入れればよい」を提示します。う〜ん、これはこれまでの価値観を大いに揺さぶられる考え方です。でも私はこれになぜか素直に同意できるのです。私もかねてから心のどこかで世の中は金「ではない」と思い、「金は天下の回りもの」だと信じてきたからです。貯め込むのではなく、使ってこそお金は生きるんじゃないかとも。

この件に関して、安冨氏が清水有高氏のYouTubeチャンネル「一月万冊」に出演された際、清水氏がこう語っていました。

お金の使い方。これをですね、友だちを作る、こっちの方向で、人間関係を作るためにお金を使っているのか、それとも人間関係が恐いから、逃げるために金で解決してるのかで、人生だいぶ変わります、これは。で、これはね、人間関係を切る方向、感じなくする方向で金を使ったり金を稼いだりしていると、まあ何だろう、不安になりませんかと。友だち一人もいなくて……
https://youtu.be/zI4uGUAE9Ag

他人に依存しないためにお金を貯めたり使ったりするのは間違っているということですね。私など、極端に友だちの少ない人間で、職場で気の合う同僚はたくさんいますが、仕事を離れたところで結びついていて頼れる、あるいは依存できる人などほとんどいないので、これはまことに痛い指摘です。

妻は私と真逆で、いろいろな人とすぐに仲良くなれるし、仕事を離れたところでの友人もたくさんいます。本人は「食べ物の好き嫌いはないけど、人の好き嫌いは激しい」と言っていますが、それでも確実に友だちのネットワークを広げている。すごいことだなといつも思います。中高年のこの歳になってまだこういうことを考え、悩んでいるのも情けないことですが、あらためて「金は天下の回りもの」をキーワードに、お金の使い方を考えてみようと思っています。