インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「レッドスキン」をめぐって

新聞に、興味深い記事が載っていました。アメリカンフットボールのプロリーグ・NFLで、「ワシントン・レッドスキンズ」というチーム名が「先住民を侮辱している」と批判され、改名を検討しているという記事です(東京新聞7月5日朝刊)。

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私はアメフトに全然詳しくありません。というかプロスポーツ全般にあまり興味がないので、チーム名がどういう「マインド」によってつけられているのかもよく分かりません。一方で「レッドスキン(赤い肌)」という言葉が先住民を侮辱しているというのは理解できます。だいたい、肌の色をことさらに言挙げすること自体、すでに差別の匂いがします。

ただ、ひとつだけ興味を持ったのは、このチームがどういうつもりでこの「レッドスキン」という言葉を選んだのかという点です。記事によれば「勇猛果敢さを示す」とのことですが、ふつう自らのチームに命名する際は、その言葉にどこかポジティブなイメージを期待しているからですよね。チーム名というのは、それに誇りを抱きこそすれ、ネガティブなイメージを想起させるようなものではありえないと思います。

それでよく分からなくなってしまったのです。スポーツのチーム名には動物がよく登場しますが、それはやはりスポーツが基本的に「闘争」であることから、勇猛果敢で、自らを鼓舞でき、同時に相手を威嚇できるというイメージを付与したいからなのでしょうか。そう考えると先住民を動物に例えて「獰猛」なイメージにつなげるのは差別的である、と言えるのかもしれません。

でもチーム名には動物以外も登場します。こちらで教えていただいたところによれば、「エンゼルス(天使)」とか、「レッドソックス(赤い靴下)」とか、「ロッキーズ(山脈の名前)」とか、「ドジャース路面電車を避ける[dodge]人たち)」とか……。動物であっても、あまり勇猛果敢そうじゃないものもありますよね。「オリオールズ(ウグイスやムクドリの一種)」とか、「カープ(鯉)」とか「スワローズ(燕)」とか。

いずれにしても、その言葉に愛着があるからチーム名にするのではないかと素人考えでは思うのですが、そうなるとこの「レッドスキンズ」は一体どういうつもりでつけたのだろうと。もちろん私は、深く検討されることなく温存されてきた差別が改められ、人々の意識がより公正な方向に行くことは良いことだと思います。でもその一方で、命名の経緯や歴史などを考慮することなく「言葉狩り」が進行していくことにも一抹の不安を覚えます。差別されている側からすれば当然の要求であり、私もそれに反対する格段の理由は持ち合わせていないので、心が揺れに揺れるのですが。

こうなると、例えば「インディアンス」みたいなチーム名も当然批判されるだろうな……と思って検索したら、すでにそうなっていました。

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でもこのベクトルがそのまま維持されるとしたら、「インディアナ州」とか、「インディアナポリス」という都市名などに対しても、早晩改名運動が起こると思います。日本語でも、例えば「東シナ海」とか「インドシナ半島」といった呼称に対して、見直しの声が起こるのかもしれません。