インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

唯一の反対票をめぐって

昨日閉幕した中国の全人代では、反体制活動を実質的に禁じる「国家安全法」の制定が採決され、圧倒的多数の賛成で可決されました。採決にあたっての「棄権6票、反対1票」を投影する電光掲示板の写真がメディアに繰り返し登場していました。この「反対1票」というのがとても印象的だったので、「國安法 反對 一票 誰」でネットを検索してみました。

同じようなことを考えた人は中国語圏にも多かったようで、数多くのサイトがヒットしました。例えばこちらによれば、全人代の投票は匿名ではあるものの、ネットでは全人代の香港代表議員が反対票を投じたらしいという情報が流れているとしています。ただし本人は否定しているとも。

www.rfi.fr

こちらは、くだんの香港代表議員が反対票を投じたと目される「根拠」についても述べています。いわく、以前に受けたインタビューで同法に対する疑問を述べていたからだと。非合法な「行為」を取り締まるのは分かるが、合法的な「活動」まで禁止することになるのは公正ではないと述べたというのです。

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https://www.chinapress.com.my/?p=2052118

こちらには、香港代表議員が反対票を投じたらしいという情報の出どころが「微博」の投稿だと書かれています。私もリンクをたどってこの投稿を読みに行ってみましたが、「自分が投じた」と本人が言っていると避難めいた口調で書かれたこのつぶやき自体が消されずに残っているのは、そういう世論操作なんじゃないかなあ……と穿った見方をしてしまいました。

udn.com

まだまだたくさんありますが、私はこちらの「賛成票を投じなかった七人は早く逃げて……」との台湾立法院議員のコメントを表題にした記事にあった、ネットユーザーの意見が辛辣だなと思いました。いわく“七個人是暗樁啦,自以為民主(七人は「やらせ」だよ、民主的だと思いたいがためのね)”。

www.msn.com

う〜ん、本当のところは「かの国」のことですからよく分からないのですが、民主的だと装うために多少の(にしては少なすぎますけど)棄権票や反対票を作って演出しているというのは、あり得ることかなと思います。共産党一党独裁ではないという建前のために「民主党派」を残しているお国柄ですから。

日本のSNSではたったひとつの反対票に「勇気ある行動」と評する向きもみられましたが、なにしろ(新聞報道によれば)ご本人が否定しているということですから、私はやはり「穿った見方」をしてしまいます。かつて911事件の直後、アメリカの連邦議会ブッシュ大統領に軍事力行使の権限を認める決議がなされた際、ただひとり反対したバーバラ・リー議員が話題になりましたが、あの状況とはまったく異なるということなのでしょうね。

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200528/k10012448801000.html
▲一番下に「ひとりがまだ表決ボタンを押していません」とあるのも気になりました。