インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ネットの動画や写真をオンライン授業で使っても大丈夫?

通常の対面授業で、YouTubeの動画やネット上にある写真をその場で検索し、プロジェクターで投影して、参考資料として見せることがあります。これが現在はオンライン授業(遠隔授業)を余儀なくされている関係で、そういう検索をしている場面を録画したり、あるいはPowerPointなどのプレゼン資料に張り込んで解説しているのを録画したりして、Google ClassroomのようなLMSで配信するという形になっているのですが、これって著作権法的には大丈夫なの? ……という点が気になりました。

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https://www.irasutoya.com/2016/07/copyright.html

著作権法を確認する

そこで様々な資料にあたってみました。まずは「著作権法」の第35条です。2018年に改正されたこの条文では、著作物を……①学校その他の教育機関で、②教育を担任する者と、③授業を受ける者に対して、④授業の過程で、⑤複製すること、⑥公衆送信すること、⑦伝達すること、を認めています。もちろん⑧著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除いて、です。まずはこれらを確認してみることにしました。

①学校その他の教育機関……うちは専修学校なので、OK。
②教育と担任する者……私は講師なのでOK。ちなみに非常勤講師ももちろんOKです。
③授業を受ける者……うちの学校の学生なのでOK。
④授業の過程……講義、実習、演習、ゼミなどなのでOK。
⑤複製……いろいろな形がありますが、私が気になっているのはYouTubeの動画やネット上にある写真の複製です。これについては勤務先の学校から「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」から示された『改正著作権法第35条運用指針』というものが配布されていて、そこではいろいろある「複製」のパターンのうち、これらもOKとなっています。

・キーボード等を用いて著作物を入力したファイルのパソコンやスマホへの保存。
・著作物のファイルのサーバーへのデータによる蓄積(バックアップも含む)。

⑥公衆送信……私の場合は特定の学生だけに送信するので、ここは関係ありません。
⑦伝達……これは「指針」に該当例が示されていて、例えば「授業内容に関係するネット上の動画を授業中に受信し、教室に設置されたティスプレイ等で履修者等に視聴させる」などがあたるそうです。私の場合もこれですが、それをさらにオンライン授業で使っていいのかどうか(後述します)。
著作権者の利益を不当に害することとなる場合……これも「指針」に「基本的な考え方」が示されていて、そこでは学生の数を大幅に超えて配信するとか、一人一冊使用するドリルやワークブックを「全コピー」するとかはNGとなっています。基本的には、授業を受ける学生にだけ配信して、授業後は蓄積したデータを速やかに削除してそれ以上広がらないようにすればOKのようです。この点はちょっと曖昧なので、例えば学生に「コピーして外に出したりしないように(例えば友達に送るとか)」などと注意喚起しておく必要がありそうです。

いずれにしても、YouTubeの動画やネット上にある写真などの「著作物」を、授業で見せたり、一時的にダウンロードして使ったりすることは、まず問題ないようで安心しました。ただ、普段の対面授業はそれでよくても、それをまた録画してLMSで送信するのは大丈夫なのでしょうか。

授業目的公衆送信補償金制度

この点については、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大でオンライン授業を余儀なくされているという状況に鑑みて、「授業の過程における著作物のインターネット送信」が一定の条件で認められることになっています。これは数年前から検討されてきた「授業目的公衆送信補償金制度」によるもので、学校でのICT活用を促進するために指定管理団体(授業目的公衆送信補償金等管理協会・SARTRAS:サートラス*1へ一定の補償金を支払えば、著作物を合法的に利用できるというものです。

この制度は2018年に著作権法の一部が改正され、来年までに施行予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン授業への対応が必要になったため、前倒しで施行されました。今年度に限って、補償金額を特例的に無償として申請できることになったのです。つまり本来ならSARTRASへ一定の補償金を支払ってはじめて著作物のインターネット送信が認められるところ、今年度は非常事態だからとりあえず補償金はいいから教育を前に進めて、ということですね。素晴らしいです。

うちの学校もすでに届け出を済ませて、申請が受理されています。というわけで、「YouTubeの動画やネット上にある写真を使って授業を行っているところを撮影してLMSで配信」は基本的に大丈夫そうだということが分かりました。

違法著作物の取り扱い

ただし、なおもネットでいろいろと検索してみると、写真や動画のうち、「違法著作物であることを知りながら、そのファイルをダウンロードして行うデジタル方式の録音や録画は複製権の侵害」という見解を示している弁護士さんもいるようでした。ただし、ここがちょっとグレーなのですが、ダウンロードではなく再生・視聴するだけならまず大丈夫のよう。う〜ん、つまり、例えばYouTube動画を使うにしても、オフィシャルなものに限定しておいたほうがいいということでしょうか。ちょっと学校の法務部門にも相談してみようと思います。

*1:文化庁長官により授業目的公衆送信補償金を受ける権利を行使する国内唯一の指定管理団体として指定されています。