インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「布マスク二枚配布」の衝撃

東京は墨田区*1江戸東京博物館という施設がありまして、私は留学生の見学に付き添って何度も行ったことがあります。色々と興味深い展示物があるこの博物館、私にとって一番インパクトのある展示物は、何と言っても「火叩き(ひたたき)」です。

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江戸東京博物館『常設展示総合図録』98ページ

写真の中央に立て掛けてある「はたき」みたいなものが「火叩き」で、これは空襲の焼夷弾などによって屋根や壁が燃え始めた時に、棒の先についた荒縄を叩きつけて火を消すという道具です。これが実際にどれほどの役に立ったのかはよくわかりませんが、戦時中に政府(内務省)はこうした「防空道具」の常備を国民に指示したのだとか。

gendai.ismedia.jp

なぜこれを思い出したかというと、昨晩うちの首相が「布マスクを全戸に二枚ずつ配布」とおっしゃっていたからです。まずはエイプリルフールだと疑い、つぎに本当の情報だと知って思わず爆笑し、やがてその暗愚さに怒りがこみ上げてきました。

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思い起こせば、政府(経済産業省)のこのツイートに接したのが2月12日でした。

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https://twitter.com/meti_NIPPON/status/1227504602171371520?s=20

それからもう二ヶ月近く。私は通勤途中に通りかかるドラッグストア・コンビニ・スーパーなどを必ずチェックしていますが、残念ながら今日に至るまでマスクを手に入れられていません。「人からうつされない」ための予防にはあまり意味がないとされているマスクですが、「人にうつさない」ための予防には意味がある。しかも感染のフェイズは「無症状ながら人にうつすかも知れないリスクを避けるべき」という段階に入って、私も「これはマスクが必要だ」と考えを改めました。

qianchong.hatenablog.com

しかも現在は休講中の職場からも、近く授業が再開される折には、教師もマスク着用で授業されたしとの通知が来ています。困ったなあと思っていたところに「布マスク全戸二枚配布」のニュース。ありがたいじゃないか? いやいや、そんなお金があったらマスクの増産と流通に力を入れてほしいです。

事ここまで至ると、やはり「隣の芝生」ながら台湾の取り組みに注目せざるを得ません。ご案内の通り台湾では、この「マスク問題」に対してデジタル担当大臣の唐鳳氏が先頭に立ち、いち早く「在庫マップ」などを公開することで国民の混乱を回避。IDカードを利用した「実名制」でマスクが均等に行き渡るよう手を打ちました。

現在はさらに「実名制2.0」とバージョンアップして、予約から購入までを明確に制度化して国民を安心させる政策を打ち出しています。

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日本は人口で考えれば世界でも指折りの「巨大国家」で、台湾とは問題の規模が異なるため、単純に比較しても詮無いことかもしれません。また台湾が活用しているIDカードだって、ようはマイナンバーと同じで国民管理の強力なツールですから、その是非については議論もあるところでしょう。

それでも首相の「急激に拡大するマスク需要に対応する上で極めて有効だ」(日経4/2朝刊)という、あまりにも「暗愚」なドヤ顔宣言に接して、なにかこう政府に対する期待なり希望なりがポキっと折れてしまったような気がします。

いえ、これまでだって憤懣やる方なかったのです。ただ日本は「巨大国家」のその図体の大きさゆえに多少は鈍重なところがあってもしかたがない、ましてや誰も責任を取りたがらないのがこの国の「流儀」である以上、意思決定に時間がかかるのは理解できなくはないし、織り込み済みでした。

でも、その末に出てきたのが「布マスク二枚」。国民一人に一枚配布ですらなく、一住所に二枚。そこにお金をかけるくらいなら、その分を減税や公共料金の減免、所得補填のための一律給付(貸付ではなくて)などに使ってほしいです。

このニュース、今日の朝刊各紙でも意外に扱いが小さかった(載ってない新聞もありました)んですけど、あまりにも「暗愚」なので愛想が尽きたって感じでしょうか。今回のこの発表は、私たちの心にとって何か大きな転換点になるような、国や政府というものに対する人々のスタンスをガラッと変えてしまうような、そんなインパクトを持っているような気がします。

政府が責任を取りたがらないのはどの国も似たりよったりで、台湾だって彼の地で働いていた私に言わせれば多かれ少なかれそういうところはあります。“死不認錯(責任取るなら死んだほうがマシ)”という言葉もあるくらいで。それでも緊急時に際して目の覚めるようなリーダーシップを発揮する存在がおり、そうしたリーダーと国民との間に曲がりなりにも信頼関係が構築されているところはすごいと思うんです。

なんだかもう春から虚しくなってきたので、私はYouTubeにアップされている、鈴木福氏と鈴木夢氏出演の動画「ハンカチでマスクを作る方法」を見て手作りしようと思います。いえ、職場から「教師もマスク着用で授業されたし」と言われたので「学校からの支給はないですか」と聞いたらこの動画を参考にしてくださいと紹介されたんです。まあ流通してないんだから学校だって支給したくてもできないですよね。


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*1:最初、台東区と書いていたんですけど、誤りでした。