インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

メタボよりロコモ

書店で偶然、面白い題名の本を見つけました。その題名の通り、フィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一氏が、様々な職業の「運動嫌い」の方々と対談しながら、運動やトレーニングの意義を説明する本です。

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中野ジェームズ修一×運動嫌い: わかっちゃいるけど、できません、続きません。

対談のお相手はみなさん、様々な理由でほとんど運動をしていません。仕事や子育てで精一杯で、とてもじゃないけどそんな時間や気力や体力がないという方ばかりです。いや、よく分かります。私もかつては同じように「運動しなきゃいけないとは思っているけれど、時間もないし、そもそも運動自体が大嫌いだし」でなかなか運動を習慣化できなかったからです。体操もジョギングも、通勤時に一駅二駅分歩くのも、エスカレーターではなく階段を使うのも……。

中年にいたって下腹が目立ってきたときも、「まあお稽古で着物を着るときはかえってこの体型の方がかっこいいし」などと自分を納得させて、ほとんど運動していませんでした。ところが、そのころから肩こり、腰痛に加えて、なんとも言えない「しんどさ」が耐え難いほどになってきました。不定愁訴というか、男性版更年期障害というか、とにかくからだ全体がどよ〜んと不調で、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が下がっていたのです。

中野氏によれば、「健康」と「筋肉」は大いに関係があるのだそうです。筋肉と聞くと、すぐに「ムキムキ」とか「ボディビル」といったイメージが先行して嫌悪感をあらわにする方は多いのですが、ダイエットしたいなら筋肉を鍛えるのが一番効果があると氏は言います。それは筋肉量が増えると基礎代謝量が増えるので痩せやすくなるからなんですね。筋肉もからだの一器官で、筋肉ほどエネルギーをたくさん使ってくれる器官はないので、脂肪を燃焼させるためにも筋肉が必要なのだと。

また、ポコっと出たお腹を引っ込めようとやたら腹筋を鍛えようとする方がいますが、これも少々方向がずれていると中野氏は指摘します。私もトレーニングに通っているジムでトレーナーさんから言われたのですが、腹筋って、なかなか筋肉量が増えないんですよね。それより太ももやお尻、胸や背中などの大きな筋肉のほうが鍛えやすい。そういった筋肉を増やして脂肪を燃焼させるほうが、結局はお腹まわりにも効いてくる。腹筋が割れて見えるのは、腹筋自身が増大しているというより、その上にある脂肪が減るからなんですね。

健康診断などでは、以前はよく「メタボ」が話題になりました。いまでも一定年齢以上の人には「メタボ健診」が項目として入っていますけど(そのわりに行われるのは腹囲測定だけですが)、中野氏によればメタボよりもむしろ「ロコモ」のほうが深刻な問題なんだそうです。ロコモは「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」の略。加齢に伴って運動機能が衰え、要介護状態や寝たきりになってしまう危険性を指摘したものです。

現在筋トレがブームだそうですが、これも歳を取って歩けなくなったり動けなくなったりした自分より上の世代を見て、その辛さや悲惨さに「今から鍛えておかないと」と危機感を持つ人が増えたからではないかと言われています。私が筋トレを始めたのは現時点での自分のQOL低下を痛感したからですが、もっと歳を取ったらより切実にQOLと向き合わなければいけなくなるでしょう。

その意味ではロコモはかつてのメタボ並にポピュラーな課題として人々の意識に上るべきなんですね。一時期話題になっていたNHKの「みんなで筋肉体操」はそうした目的もあって放送されていたんだと思いますが、少々エキセントリックな側面ばかりが強調されて広く浸透しなかったのはもったいなかったと思います。

「筋肉があると本当にあらゆることが楽」と中野氏はおっしゃっています。私はこの二年半ほど筋トレを続けてきましたが、その言葉の意味が本当によく分かります。