インタプリタかなくぎ流

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デイヴィッド・ホックニー展

古今東西で一番好きな画家でした。何十年も前の学生時代からその作品に親しんできたデイヴィッド・ホックニーの、日本では27年ぶりとなる大規模な個展ということで、その開催を知った去年から楽しみにしていました。

www.mot-art-museum.jp

ポップアートの旗手として夙に有名なホックニー氏。私が若い頃特に魅了された作品群はいずれも、ロサンゼルスに移り住んだあとに発表された、現地の明るい日差しを反映したようなそれこそ「ポップ」なアクリル画の数々でした。

おそらく永井博氏、鈴木英人氏、あるいはわたせせいぞう氏や江口寿史氏といったポップな画風が特徴の、日本のイラストレーターやマンガ家にも影響を与えたのではないかと思われるその画風はしかし、きわめて古典的な写実絵画の伝統と技術に裏打ちされていると私は感じます。ルネサンスの画家、フラ・アンジェリコとかボッティチェリなどのフレスコ画を想起させると言ってもいいくらい。そういえば早逝した有元利夫の絵画にも通じるものがあると思います。

この展覧会では、そうした確固たる写実の技術を持ったデイヴィッド・ホックニーの、初期の実験的作品から代表的なアクリル画リトグラフ、さらには写真やiPad、映像を使った最近の作品までを存分に楽しむことができます。特にiPadを使った作品では、その一部が描き進めるプロセスとともに投影されるので、さらに氏の写実技法を目の当たりにすることができます。

特に「春の到来」をテーマにしたカンヴァス32枚をつなぎ合わせた大作や、「ノルマンディーの12ヶ月」と題された長さ90メートルにも及ぶ超大作にも、ポップアートと伝統的な写実技法のエッセンスが十二分に感じられます。きわめて現代的ではあるけれど、絵画というものが本来持っている愉悦を存分に味わわせてくれるのです。会場はけっこう混雑していましたけど、もっと人の少ない時間帯を狙って再訪したいと思った展覧会でした。

会場の入り口に置いてあった、「ユース向け」と書かれた鑑賞ガイドがとてもよくまとまっていて、秀逸です(こちらにpdfファイルがあります)。会場の最後にあるミュージアムショップは、なにせこうしたショップのグッズになりやすそうなホックニー氏の作品群であるだけに、例えばTシャツなどはほとんどがすでに売り切れていました。私はあまのじゃくなので、そうしたグッズにどこか「売らんかな」精神を感じてしまって、結局図録をふくめて何も購入しませんでした。

あと、本展の公式サイトにはホックニー氏が寄せたメッセージ動画があるんですけど、ホックニー氏もお年を召したなあと思いました。1937年のお生まれなんですから当然ですか。あと、個人的にはタバコを手に語っているのがなんとも……陳腐なことを言うようで申し訳ないけれど、100年の恋も醒めちゃいます、ホックニーさん。


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