インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ふるさと納税

きのうの東京新聞朝刊で、前川喜平氏が「ふるさと納税しない宣言」というコラムを書かれており、一読「その通り!」と叫びました。私もこれまで一度も「ふるさと納税」に食指が動いたことはなく、その理由は前川氏とまったく同じだったからです。



このコラムでも触れられていますが、私が住んでいる東京都の世田谷区ではふるさと納税制度に伴う区税の流出が大きな問題になっています。ふるさと納税はごくごく単純化して言えば自治体への寄付を行うことで所得税や住民税の支払いにかえることができる制度です。いま現在とある自治体に住んでいて、その自治体の公共サービスを受けているのに、その財源が他の自治体へ行ってしまう……世田谷区ではその度合いが大きくなりすぎて悲鳴を上げている。そういう認識でよろしいでしょうか。

www.tokyo-np.co.jp

総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」によれば、本来地方創生を目指して作られたこの制度には三つの意義があるそうです。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
総務省|ふるさと納税の理念|ふるさと納税の理念

なるほど。「第一」の税の使われ方を自分事として考えるというところと、「第二」の人が多く集まる都会ばかりではなく地方の環境も維持継承していこうというところ、そこは私も理解できます。でも現在のふるさと納税の姿は「第三」の部分が実質的に返礼品の豪華さ競争に堕してしまっています。なかには[第一」と「第二」の理念をふまえたうえでふるさと納税制度を利用している方もいるでしょうけど、結局は納税者である私たちの大半がそこまで意識は高くなかったということになっちゃうのかな。

こちらの記事(下掲)では、ふるさと納税が「未来を食べて”今”の享楽にふける」行為だと断罪されています。「本来、子や孫、あるいは老後の自分が受けるはずだった未来への投資利益を肉や魚に変えて今食べてしまっている」と。そうなんですよね、この制度によって、自治体の公共サービスの充実を目的に行われる納税が、結局は個々人の享楽に一部使われてしまう。上述した世田谷区のようなことも起こる。そして前川氏が指摘されている富裕層ほど有利な逆進性もまた問題です。

www.businessinsider.jp

コロナ禍の最中に「Go To Eat」とか「Go To Travel」などという名称で一部の業界への振興策が公費を使って行われました。これらの施策によって救われた企業も多いでしょうし、一律に批判するものではありませんが、私個人はこうしたキャンペーンを利用しようとは思いませんでしたし、実際一度も利用していません。それはふるさと納税(特にその返礼品)に食指が動かないのと似たような理由からです。公費の支出を個々人の享楽に使ってしまうのがどうしても解せなかったのです。

もっとも私は現在、NISAの制度を利用して毎月貯金のつもりで投資信託商品を買っています。投資などと言ったら「投資さん」がへそで茶を沸かすほどの少額ですが、これだって非課税枠を利用して個人の享楽ないしは利益のために税金を掠め取ってるんじゃないかと言われるかもしれません。政府は投資がもっと日本企業へ向かうことも期待してNISAの拡充を進めてきたようですが、私のように日本企業の未来にあまり明るい期待を抱いておらず、インデックスファンドの「除く日本」を買っているような人間は、そこからも外れていますしね。