インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

客に媚びない

先日、東京は北参道駅近くの裏道を歩いておりましたら、とつぜんイタリア料理のお店が現れました。入口ドアの横にこんな看板が置かれていて、こう書かれていました。「お得なセットメニューはございません」。お店のウェブサイトによると、こちらのお店にはそもそもメニューというものがなく、店頭に並べられた魚介類を前に、お店の方と相談しながら料理を決めるというスタイルだそうです。

いわゆる「時価」というやつですか。お店の外やウェブサイトからおおよその予算が読めないのはちょっとこわいです。でも私はこの看板の文言になぜか惹かれてしまいました。きっぱりと「お得なセットメニューはございません」とうたっている……ということはつまり、ランチは適当に安く済ませたいというタイプのお客さんは来ていただかなくてけっこうです、本当においしいものを食べたい、しかしおいしいのだからそれなりのコストはご覚悟いただける方だけ来てください、ということなのだなと思って。

人によっては何だこの店と反感を抱くかもしれませんが、私はこういうスタンス、嫌いじゃないです。「お客様は神様」とは考えず、こちらはサービスを提供し、客は対価を払う、つまりはサービスの提供側と享受側は対等なのだというスタンス。考えてみれば当たり前のことなんですけど、なぜか客の側が横柄にしているというのをよく見かけます。ふだんはそうでもないのに飲食店などでは店員さん対して急に横柄になる人が時々いますが、私はそういうところにその方の本性が現れると思っています。

先回帰省した際に行った北九州のラーメン屋さんにも同じようなスタンスを感じました。「スマホ見ながらラーメンを食べたい人は迷惑なので来ないでください」。いいですね、嫌いじゃないです。

それにこのふたつのお店はいずれもこれだけの事を言うからにはこちらも良い仕事をしますよと宣言されているようで(実際お店がつぶれずに続いているのですから、そのお仕事を支持するお客さんがたくさんいるのでしょう)、そこもまたカッコいいと思うのです。