インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

第三者返答

約一ヶ月前の新聞に、伊是名夏子氏が「第三者返答」について書かれており、今朝は同じ新聞の投稿欄にこの言葉を初めて知りましたという読者の方の声が寄せられていました。

「第三者返答(第三者話法)」とは、こちらの論文によれば「話し手が、話しかけてきた話し相手が有する外見的特徴などの言語外的条件に基づき、(話し相手との意思疎通に問題がないにも拘らず)その話し相手を無視し、話し相手と一緒にいる第三者に返答すること」とされています。

cir.nii.ac.jp

やさにちウォッチ」というサイトの『「第三者返答」に気をつけてください』で紹介されている、こちらの映像もとてもわかりやすいです。


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オストハイダ・テーヤ氏が上掲の論文でこの問題を指摘されたのが2005年のこと。もちろんこの問題はそれ以前からも存在していたのでしょうが、氏の論文からもすでに16年、17年という月日が経っているのに、いまだ私たちの社会ではこうした注意喚起が必要なほど多くの人々の意識は変わっていないのです。

私の周囲でも、外国籍の配偶者がいる同僚からはしょっちゅう同様の話を聞きます。また、背景は少し異なりますが、通訳をしているときに、相手側(例えば中国語母語話者)は、みなこちらの発話者(日本語母語話者)にではなく通訳者である私に向かって話しかけてくることが多いというのも、同じようなメカニズムではないかと思います。人は自分の発話が通じていると思う人に向かって話しかけるものなんですね。

それでも通訳の場合は、実際本当に言語が異なっていて通じないわけですからまだ無理からぬところがありますけど、外国の人や障害のある人、あるいは患者さんに対してこういう態度を取るのは失礼きわまりありません。そしてこれは個々人がきちんと知識を持ち、自覚して行動することでなくしていける行為です。

こうした記事を通じて「第三者返答」についてもっと広く知られるといいなと思います。