日本語学校で会話の授業を担当している同僚が、こんなことを言っていました。「きょうびの留学生は、洋の東西を問わず恋愛に淡泊みたい。恋愛とか結婚をテーマに会話を設定すると、みんな恋愛なんかしたことないし面倒だ、ましてや結婚なんて……って、口を揃えて言うの」。昨日たまたま中国で「横たわり族」が急増というニュースを読んで、「これは中国語でなんと言っているのかな」と思い調べたところだったので、そこにつながる話だなと思いました*1。
記事によれば「横たわり族」の特徴は「物質的な欲求が乏しく、勤労や結婚、出産に積極的でないこと」だそうです。まさにこれ、同僚が言っていた「とにかくみんな欲がないの」という話と符合します。もちろん中国におけるそれは、日本とはまた異なる社会的な環境のもとでの現象でしょう。かの国の格差は日本の比ではありませんし、受験や就活における競争の過酷さもすさまじいものがあります。
結婚についても、私の周囲にいる中国語圏の留学生と話していると、いまだに華人社会では「結婚に際しては男性が住居と車を用意しなければならない」といった「2021年の現代でも? 本当に?」とこちらが聞き返してしまうような「縛り」について、諦めとも愚痴ともつかない気持ちの吐露を聞かされることがあります。それでも現実には、特に都市部などでは不動産価格も物価も高騰しているため「どうすればいいのか今はわからない」と言う人も少なくありません。そりゃ、人生におけるステップから下りて自由になりたい、「横たわりたい」と思っても仕方がないかなと。
面白いと思うのは、きょうびの留学生(あくまでも私の周囲にいる人たちはということですが)は、例えばジェンダーやLGBTsについての考え方はとてもフラットで、誰が誰を好きになってもいいという人が多いのに(もちろん守旧派もいます)、自分は恋愛経験はないし、特にしたいとも思わないという人がけっこういるという点です。
でも、その一方でネット動画の恋愛ドラマなどはよく話題にしているし、「推し」のアイドルについても盛り上がっています。これはどういうことなんでしょうか。2D萌えと同じで、消費としての恋愛は好きだけど、自分自身がリアルな人間関係であれこれするのはめんどくさいということなんでしょうか。そういうみなさんが、じゃあいちばん夢中になっているのは何かといえば……ゲームなんですよね、これが。
Twitterで教えていただいたところによると、現代の日本のお若い方々もかなり似たような感じで「欲がない」んだそうです。そういえば「さとり世代」という言葉もありました。私自身、昔からあまり愛だの恋だの青春だのといったタームには興味がなくて、その点ではそういう欲はひとさまより薄いという自覚はありましたけど、それでもじゃあ二次元のキャラやゲームで充足できたかというと、まったくそんなことはありませんでした。
https://www.irasutoya.com/2016/10/blog-post_392.html
まあ私たちのようなオジサン・オバサンが心配なんかしなくたって、みなさん自分のしたいことをしていくでしょうし、いまのお若い人々がダメだとか情けないとか、ましてやもっと欲を持てだなんて言うつもりは毛頭ありません。でも心のどこかに、そういう風に欲が持てない時代にしてきてしまった、先行する世代の私たちの責任みたいなものを感じるのです。
まあ私たちだってそうしようと思って時代を作ってきたわけでもないんですけど。それに私の周囲にいる留学生は、まだ海外に留学しようとしてきている点で、そこそこ欲というか野望みたいなものがある人たちだとは思うんですけど。
追記
ネットで、こういう記事も教えていただきました。その気持ち、分かるなあ……と思う一方で、やはりある程度暮らしが豊かになった末にこういうふうになっていくのかな、とも思いました。
*1:ちなみに中国語では“躺平族”となっていました。