インタプリタかなくぎ流

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還暦以上は口を出すな

宮城県女川町中心街の復興に際して、町会長がおっしゃったという「還暦以上は口を出すな」。テレビの報道番組を見ていたらこんな言葉が紹介されていました。

復興計画では、10年前の大津波のような災害が再び起こったときに備えて、巨大な防波堤などを建設する自治体が多かったそうですが、その反面街から海が見えなくなるなど景観が損なわれてしまうケースも多いのだとか。

そんななか女川町では、災害を完全に防ぐことは難しいとして、万一災害が起こった際には確実に避難できることを優先し、あえて巨大な防波堤などを作らず景観を大切にし、街もコンパクトに再生させようとしたのだそうです。女川町のウェブサイトにある「復興計画」でも、景観にも配慮した復興を進めると謳われています。そこには若い世代の人たちの声が積極的に反映されてきたとか。

「還暦以上は口を出すな」。つまりお年寄りは出しゃばらずに、若い人たちの意見を聞けということですよね。過激に聞こえるけれど、いい言葉だと思います。ネットで検索してみると、実際にそこまで過激なセリフだったかどうかはさておき、「20年後に責任がとれる30代、40代にまちづくりをまかせて、還暦以上は全員顧問になって、若い人たちをサポートしたい」という体制を取ろうとした、ということのようです。

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ここにはもちろん、女川町という街の規模や、その土地の精神風土みたいなものも関係しているのでしょうから、これをあらゆる自治体や団体・組織に敷衍して語ることができるようなものではないと思います。それでもこうやって「還暦以上は口を出すな」と、みずからピシャリと言い切って線を引き、一線を退いてオブザーバーに徹するというの、そして若い人たちを信じて任せるというの、いまの私たちの社会に欠けていることだなと思いませんか。


女川駅前商業エリア開業1周年 地元市場ハマテラスグランドオープン

かつて故・永六輔氏の講演を聞いたときのあるエピソードを思い出しました。劇団文学座で、故・杉村春子氏が当たり役のブランチ(テネシー・ウィリアムズ作『欲望という名の電車』の主人公)を長年担っていることに対して、「老境に入って、いつまでも主役を張るな。若い俳優に任せて脇役に回れ。脇役で、ほんの少しの出番であっても、そこはそれ『さすがは杉村春子』と言わしめるようなピリッとした演技を見せるほうが、よほどカッコいいではないか」と、まあ概略そんなお話でした。

年寄りを邪険に扱えというわけじゃないんです。巷間喧しい「老害」といったような罵倒語とも違う。年寄りは年寄なりの「分」をわきまえよう、そしてこの社会の世代交代に進んで手を貸そう、新陳代謝を促そうということだと思うんです。

私もあと数年で還暦を迎えます。還暦とは干支が60年で一周して生まれたときの年にもどるということです。一周したんだから、二週目は新たな気持ちでまったく別のことをしたい。すくなくとも今の自分のありようを延命させることばかりに汲々として、そのあげくに若い人たちの邪魔をするような存在にだけはなりたくない。そう思っています。

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