インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

オンライン授業をどうする?(その5)

中国語に“集思廣益(jí sī guǎng yì/ジースーグァンイー)”という言葉があります。多くの人々の知恵を集め、広く有益な情報を取り入れるという意味で、私は大好きな言葉です。新型コロナウイルス感染症の影響で、これまでに例のなかった規模でオンライン授業(遠隔授業)への対応を迫られているいまほど、この言葉が重みを持つときはないでしょう。

なにせ、ほとんどの人々が未経験なのです。もともとインターネットは“集思廣益”が大いに発揮される場所で、何かわからないことがあったときに「ぐぐって」みれば、たいていは先にその問題に直面したことがあるどなたかが、その顛末と解決法を分かりやすく紹介してくださっています。それもまったくの自発的に、無料で。これはインターネットのよき「文化」と言ってもよいかと思います。

新型コロナウイルス感染症の影響で学校での対面授業がストップして数ヶ月。ちょうど年度替わりで春休みを挟んでいたこともあって、オンライン授業に対する私の初動はずいぶん遅れました。いまのような状態になるとはまったく想像ができておらず、また経験のないオンライン授業について何もイメージが沸かず、ほとんど事態を傍観していたのです。いや、もっと正直に言えば「オンライン授業なんてめんどくさい」から手を付けられないでいたということでしょうか。

それでも新学期を前にこれがだんだん「長期戦」になることが明らかになり、勤めている学校がオンライン授業へのゴーサインを出すにいたってようやく重い腰を上げました。それからずいぶん新しいことを学んだと思います。ZoomやMeetsやSkypeなどを使ったオンライン会議。授業のプラットフォームとして使うことになったGoogle Classroomでの課題作成。それに付随したGoogleクラウド上で提供しているさまざまなサービスの利用*1。動画の撮影とアップロード……。

そんな際に色々と参考にさせていただいたのは、インターネット上でそうした取り組みをいち早く始めた方々が惜しみなく公開されている情報の数々でした。一時期「自分の時間がどんどんなくなっていく」ことに危機感を覚えて断捨離し、封印していたいくつかのSNSサービスも、この情報収集に限って復活させました。SNSでも多くの教育関係者が、ご自身の現場の状況や、その状況に合わせて試行錯誤された結果を公開されていました。四月は、そんな情報を頼りにしながら、あっという間に過ぎてしまいました。“集思廣益”を実感した一ヶ月でした。

多くの「先達」の情報をありがたく頂戴しながらも、同時にみんな初めての経験なんだということも分かってきました。もちろん何年も前からオンライン授業の実践をされていた方も一部にはいらっしゃいます。でも情報発信をされている方々の多くは、私と同じように今回の事態に際して、急場しのぎで慌ただしくオンライン授業への取り組みをスタートさせ、悪戦苦闘しながら今に至っているのです。誰もまだ「最適解」にはたどり着けていません。というか、教育の現場は多様すぎるほど多様なので、最適解などないんでしょうね。それぞれの教職員が、それぞれ向き合っている学生さんたちと作り出していくしかない。それでも私が奉職しているような成人教育の学校はずいぶんラクだと思います。義務教育の現場にいらっしゃる方々のストレスは並大抵のものではないでしょう。

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https://www.irasutoya.com/2020/04/blog-post_838.html

ともあれ、緊急事態宣言の解除が延期されたいま、五月もオンライン授業は不可避となりました。いや、六月以降も同じ状態が続くと思っていたほうがいいのでしょう。オンライン授業を準備し実践していると、そのあまりの「隔靴掻痒感」にストレスがたまります。これはひとえに既存の仕事をむりやりオンライン化しようとするからなのでしょう。ここは抜本的に、まったく発想を変えたところから取り組まなければならないんでしょうね。

インターネット上の様々なご意見を徴するに、今回の事態を逆にチャンスと捉えている方も散見されます。例えば……あと数年で5Gの通信環境が整備されたら、オンラインでより自由で大胆なことができるようになる。VR(仮想現実・バーチャルリアリティ)の利用も飛躍的に進むだろうから、それらを駆使した全く新しい教育形態が生まれるのではないか。あるいは、オンライン授業がいま以上に充実しだしたら、留学という学び方自体が激変するかもしれない。現地の空気や事物に直接触れたいという動機以外では留学自体がなくなっていくとしたら、経済的な条件に左右されず真に教育の質だけで勝負できる……といったような。

私はいまのところそこまで鼻息は荒くなく、オンライン授業をやればやるほど人と人とが実際に会ってやり取りすることの大切さが痛感されるのですが、それもまた旧態依然たる考え方で淘汰されていくのかもしれません。同業の方と意見交換していると、みなさんいまの事態に果敢に立ち向かっていらっしゃるんですけど、ふと「本当はこんなことしたくない」「もうこの仕事自体をやめてしまいたい」といった本音が垣間見えることがあります。私は(家計のこともありますから)そこまでではなく一応前向きではありますけど、その気持ちはわかるような気がします。

インターネットは“集思廣益”の場なんですけど、同時に“同病相憐”の場でもあるのでした。

*1:こうしたGoogleの諸サービスは、正直に申し上げてちっともユーザーフレンドリーな作りではなく、ストレスがたまります。それでも学校がこれらを使うよう指示を出しているのでしかたがありません。