インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

留学生の同時通訳実習

通訳や翻訳を学んでいる留学生が、講演会での同時通訳実習に臨みました。毎年この時期に開催しています。学外から講師をお招きして、ご専門の内容を「容赦なく」お話しいただき、それを同時通訳するという実習です。この日のために、数ヶ月前からサイトラを始めとする同時通訳訓練を行い、スライド資料や関連資料などの予習を行い、グロッサリーを作り……という作業を続けてきました。

講演のテーマはプロの能楽師による「能楽史通覧」、つまり能楽が成立する以前の芸能から説き起こして、近現代までの歩みをたどるという難しいものでした。なにせ、猿楽や伎楽、雅楽など能楽に先行する諸芸能をはじめ、日本や中国の古典、芸能、宗教、政治などの話題がふんだんに盛り込まれた内容なのです。日本語の母語話者であってもけっこう難しいと思います。しかも講師の先生からは世阿弥風姿花伝』の一部を読んでおいてくださいという指示まで。

さらに講演の直前までスライド資料に変更や増補が入り、この点でもリアルな、いやリアル過ぎるほどの実習になりました。実際の通訳業務でも、当日使用するスライド資料がなかなか出ないとか、本番直前に出ても変更がたくさん入るとか、極端な場合には当日に全部差し替え(しかも通訳者には知らされず!)なんてこともあるからです。もちろん今回は訓練が目的なので、なるべく「前びろ」に資料を渡して各自予習させましたが、なかなか難しい内容でした。

それでも留学生諸君はよく頑張っていました。英語と中国語の2チャンネルで同時通訳を行い、下級生や教職員が聴衆となって訳出をイヤホンやパナガイドで聞きました。人によって出来不出来の差が大きかったですが、約二年前に入学して以来、地道に真面目に訓練を重ねてきた留学生は、ほとんどこのまま現場に出てもなんとかなりそうなくらいのレベルにまで達していました。逆に、二年間手を抜きつづけてここまで来て、惨憺たる結果に終わった留学生も若干名いました。やはり語学は、日々の地道な努力がものをいいますね。

こうやって同時通訳の訓練をしても、実際にフリーランスとして活躍する場はかなり限られています。それに一部のハイエンドの方々を除いて、通訳や翻訳だけで食べていくのはかなり難しいのが現状です。それでも卒業して企業などの就職したら、その語学力を活かして通訳や翻訳をすることは多いでしょうし、またウィスパリングのような形で同時通訳を任されることもあるでしょう。若い留学生のみなさんの、今後の活躍を期待したいと思います。お疲れさまでした。

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